<1>よりつづく
「寅さんとイエス」
<2>
米田彰男 2012/07 筑摩書房 全集・双書 307p
★★★★★
1)ところで突然ですが、この二人、似てませんか?
寅を垂れ目にしてちょび髭を生やせば、吉福伸逸氏に、逆に吉福氏の眉にホクロをつけてアゴを四角くすると、寅に・・・・(爆笑)
2)
「さしずめインテリ」が嫌いな寅にとって吉福氏は苦手だっただろうし、吉福氏にとっては、寅ほど三枚目になりきることはできなかったかもな。でも、この二人のキャラがかぶったら、面白かっただろうな。
3)寅シリーズ全48作を再視聴し、この「寅さんとイエス」 を読みなおしてみると、いろいろなことに気付く。Oshoがそもそも「ゾルバ・ザ・ブッタ」と言ったのは、物質性と精神性の二面性を象徴的に統合させた人間像として語ったのに対し、この本の著者米田彰男は、寅とイエスの「類似性」を強調する。
4)私は自由を教える。いまや人間はありとあらゆる束縛を打ち壊して、すべての牢獄から出て来なくてはならない---もはや隷属はいらない。人間は<個>にならなくてはいけない。彼は反逆的になるべきだ。いつであれ人間が真に反逆的になったなら・・・・。
ときに少数の者が過去の圧政から逃げだしたが、それはごくまれだなことだった---イエスのような人がひとりか二人、仏陀のような人がひとりか二人、といったほどのことだった。彼らは例外だ。そしてこれらの人々、仏陀やイエスでさえ、全一(トータル)に生きることはできなかった。彼らは試みたのだが、社会全体たそれに反対した。
私の考えによる新しい人間は、ギリシャ人ゾルバであるとともにゴータマ・ブッダでもあるだろう---新しい人間は「仏陀であるゾルバ(ゾルバ・ザ・ブッダ)」になるだろう。彼は感覚的であるとともに精神的だ。
彼は肉体的であり、完全に肉体的であり、体のなかにあり、感覚のなかにあり、肉体と肉体が可能にするすべてのことを楽しんでいるが、同時にそこには大いなる意識、大いなる目撃者がいるだろう。彼はキリストであるとともにエピクロスだ。
Osho『英知の辞典』 「新しい人間」p31
5)この本の著者が寅を愛していることは間違いない。人一倍愛し、人一倍研究している。それは他の類書の著者たちとまったく同じである。一方で著者はカトリック司祭であり、大学教授でもある。その経緯を尋ねると、それなりに起伏に富んだ人生であるようで、なるほど、このへんに寅に対する親近感の源泉があるか、と思わせる。
6)いずれにせよ、この本においては、寅とイエスの類似点を、ある意味、牽強付会にくっつけようとするところに難点がある。これでは寅の独自性、イエスの独自性が矮小化されてしまいかねない。
7)たしかに寅の中にも、とおとい神聖さがあるのであり、イエスのなかにも、なかなか俗な人々から愛され得る人間味があるのであり、その対比は見事である。しかしながら、この二つの存在を一つの人間像として統合しようとするところに、限界がある。
8)寅は寅なのであり、そのままで一つの人間像なのであり、イエスもまたイエスであり、そのまま一人の人間なのだ、というところの見切りが悪い。
9)要は、著者にとっては、寅も、イエスも「他者」なのであり、自分以外の外に存在する何かなのである。だから、別々なものを統合しようとしつつ、結局は自分自身のことを忘れてしまう。
10)ことここに及んだら、自分のなかに寅性を見、さらにイエス性を見、自分の生き方、自分の存在そのものに「寅とイエス」を統合しなくてはならないのだ。そのあたりが弱い。
11)もしイエスが寅さんのように愉快で面白い人物でああるなら、もしイエスが寅さんのようにどこまでも自由で、天の風の吹くままに、悲しんでいる人や苦しんでいる人の所に趣く、そういう人であるならば、もしイエスが寅さんのように、時代に押し流されて盲目的に信じている誤った価値観を、笑いとユーモアに包んで人々に、誤っているなと気付かせてくれる人物であるならば、キリスト教や聖書に対する見方も少しは親しみ深いものになるかもしれない。p293「エピローグ」
12)まったくその通りだと思う。そしてそれはイエスに期待すべきとするよりも、まずそれを語る本人自身の問題であるべきだと思われる。そういった意味においては、この本の著者は、「寅・ザ・イエス」の可能性を提示することによって、その可能性の道を示した。
13) どうか、イエスと寅さんが、地震・津波そして原発という、かつてない天災と人災の極地の苦しみの中にいる人々に、天上から希望の息吹を力強く注いで下さるように! イエスと寅さんが、家族や友を失った人々の筆舌に尽くし難い悲痛を、少しでも和らげて下さることをを切に切に願いつつ、自然の猛威によって帰天されたお一人お一人のご冥福を心からお祈りする次第である。p296「エピローグ」
14)この本は3・11前に書かれており、脱稿直前に3・11が起きたのであった。
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