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2009/03/26

オバマは世界を救えるか

「オバマは世界を救えるか」 

著者:吉崎 達彦 

  • 単行本: 235ページ
  • 出版社: 新潮社 (2009/02)
  • オバマは世界を救えるか

    Vol.2 No.551 ★★☆☆☆ ★★★★★ ★☆☆☆☆

     タイトルは「オバマ」の文字がカラー刷りだが、本書の主テーマは「世界」のほうにある。世界はいったいどうなっているのか、まずはそのことがこの本が言わんとするところだ。

     日本などでは、「肉食動物がいなくなったから、後に残った草食動物同士で仲よくやっていきましょう」という考え方は、割と広く受け入れらるのではないかと思います。つまりハイリスクハイリターンを目指す連中はいなくなったから、後はローリスクローリターンでやっていいというわけです。しかし、それではリスクマネーの供給が滞ってしまいます。結果として、ベンチャービジネスや新興国市場にはお金が流れなくなり、世界経済の成長率は低下することになってしまうでしょう。これはすでに、現実のものとなりつつあることですが。p64

     この本は商社や米国研究所などを経て、「サンデープロジェクト」などにも出演しているというエコノミストの本であるがゆえに、話題はそのようなマクロな世界経済に話題が集中してしまう。

     実際に、ジャングルから肉食動物がいなくなったときのことを考えてみるとよく分かります。瞬間的には、ジャングルは草食動物のパラダイスになるかもしれませんが、時を置かずして植物は食べつくされて、生態系全体が狂ってしまうでしょう。やはりジャングルには、肉食動物や草食など多様な生き物が共存していることが必要なのです。p64

     著者はどんな人なのか知らないが、あまりの極論に亜然としてしまう。人間たちはジャングルに住んでいるわけではない。山からエサ不足で山猿や熊たちが里に降りてきただけで、人間界は右往左往するのだ。町中にトラ、ライオン、ヒョウ、タイガー・・・などの猛獣たちを放てというのは極論だ。にわとり小屋にイタチが忍び込んだだけでも、人間界は破滅する可能性もある。

     もっと言うならば、ジャングルにはハゲタカやハイエナの類も必要です。本物のハゲタカやハイエナが、「死肉を循環させる」という形で生態系にとって重要な役割をはたしているのと同様に、「ハゲタカ・ファンド」は金融の世界を効率よくするために必要な存在です。p65

     AIGが破たんして米国政府の税金がつぎ込まれることになったが、その税金は、役員たちの高額なボーナスの穴埋めのために使われることがあきらかになった。著者がいうような、生態系に必要な役割なんかではない。自然界の動物たちは、自らの胃袋が満たされれば、必要以上に殺生はしない。しかし、人間界のハゲタカたちの欲望に限界はない。

     AIGの子会社であるア☆コなどの、餌とり場になっているのは、高齢者たちのかよわき被保険者たちが多い。まさにニワトリ小屋にイタチを放したよりもはるかにひどい状況になっているのだ。ジャングルの猛獣たちには、それなりのすみ分けがあるはずだ。しかし、著者の言っていることは、たとえ話を使って、人間界を愚弄した話になってしまっている。

     日本では「ハゲタカは存在それ自体が悪」ということになっていて、例えば長銀や日債銀が破綻した際に荒稼ぎをしたファンドのことを、今でも悪し様に言う人が少なくありません。しかし、あのときは国内でリスクマネーを供給できる金融機関がなかったのです。そして誰かがリスクマネーを提供してくれなかったら、その後の金融再生はもっと手間取っていたでしょう。極論すれば、火事を起こしてしまったときは火事場泥棒に来てもらった方がありがたい。そうでないと、いつまでたっても焼け跡の整地が終わらず、再建計画が進まないからです。p65

     もうここまで読んだ段階で、私はこの本に見切りをつけた。火事を起こさないように気を付けることが先なのに、著者はまず火事場泥棒の話から始まっている。火事場泥棒ありき、なのだ。著者は、現実の火事の消火活動にあたったことがあるだろうか。すべての火事場に泥棒がやってきただろうか。火事場泥棒などこなくたって、99.9%の火事場は、キチンと整理されていく。それには普段からの消防団のチームも必要だし、防火クラブのネットワークも必要だ。さまざまな避難訓練も行われている。

     そもそも日本の金融危機は、ハゲタカファンドを含むグローバルマネーが解禁されたことによるところが大きい。つまり、里に猛獣が放たれたところから始まっている。自分で火事を起こしておいて、消火活動にも協力せず、最初から火事場泥棒狙いでは、マッチポンプより始末がわるい。著者の論理は、破綻している。

     著者はオバマに何を期待しているのか知らないが、すくなくとも当ブログが求めているものとは大きく違っているようだ。

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