精神分析と無意識 D.H.ロレンス
「精神分析と無意識」
D.H.ロレンス紀行・評論選集 5 1987/09 単行本 381ページ 出版社: 南雲堂
Vol.2 No.582★★☆☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
Oshoはどうしてこの本を過大評価したのだろう。「もし私が再び本を読むことがあったら、これが、私が読む最初の本となるだろう。」と「私の愛した本」の中で、最大の讃辞を贈っている。確かに劇画的で文脈にメリハリがあり、わかりやすいが、それだけに心理学的用語や表現にやや難がある。Oshoはこの本一冊というより、「チャタレー夫人の恋人」などの一連の文学作品や、44歳で亡くなったという早逝の天才を惜しんでのことだろうか。
意識とは何であるのか、知識とは何であるか、これを決定しようとしても無駄である。少くとも誰も気にとめなかろう、定義なんどなくても先刻ご存じだからである。だがわれわれが知りそこなっていること、しかも知らねばならぬことは、一々の機能する有機体の内部で統合され前進している初発の意識の性質である。頭脳は観念的意識の坐所である。そして観念的意識はただ意識の袋小路、絹紡糸にすぎない。意識の厖大な嵩は非頭脳的である。それはわれわれの生命の、生命いっさいの、体液である。p34
私たちの世代は、すでに高齢の両親の介護にあたっていることが多い。身体ばかりではなく、徘徊やアルツハイマー症状の親を抱えていることはめずらしくはない。「ここはどこ?私は誰?」の状態になっていなくても、自分の息子の顔を見ても「親戚の人だと思うが、誰だかわからない。」とベッドの母親に言われてがっかりしている友人もいる。
だからと言って、介護を放棄するわけではないが、このような話を聞くたびに、人間にとって、「意識」とはなんであろうか、という疑問が深まっていく。「意識」とは、「私」が「生きている」という感覚であろうが、はて、こんな簡単な定義でいいだろうか。
眠っている時、自分は「意識」しているのだろうか。「私」は「生きている」という感覚は持っているのだろうか。子どもはいつから「私」は「生きている」という感覚を持つのだろうか。「無意識」とは、意識がなくなることだろうか。あるいは、意識の下に隠れた大きな海原のことなのだろうか。「超意識」とはなにか。「宇宙意識」とはなにか。「集合意識」とはなにか。普段なにげに使っている言葉群だが、複数の人々の使う言葉の共通項を探っていくと、実にバラバラに使われていることに気づく。
この小さな本の目的は、いま無意識の名で通用している曖昧な沼地にほんの些細な足場をつくること、そのことだけである。そして無意識とはじっさい何であるか、やっと何か考えがまとまったようである。それは親の核が融合する瞬間にひとつひとつの個の有機体内に目覚めるあの能動的な自発性であり、外的宇宙と対極の関係を保持しつつ、徐々に自らの個の精神(プシケ)と体を展開し練成して、自身から知性(マインド)と身体をつくりあげてゆく。こういうと無意識という語は生命の別名にすぎぬと思われるかもしれない。しかし生命が一般的な力であるに反し、無意識はひとつひとつの個の有機体における本質的に単一で独自なものである。それは自らの具体化と自己表現をもたらす能動的で自己展開的な魂である。p69
ロレンスの試みは果敢であったとしても、必ずしも確かな「足場」にはなっていないように思われる。しかしまた、当ブログもまた、いかに些細なものであったとしても、ちいさな足場であったとしても、このロレンスの試みをわが試みとして、わずかでも前に足を進めていこうと思う。
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コメント
チダさん
ロレンスは初めてですが、もしOshoがコメントを残していなかったら、この本も読まなかったと思います。しかし、それにしてもOshoはまた、どうしてこの本をこのような形でコメントしたのかな、と以前から疑問でしたが、少しづつとけてきました。でもまだよくわからんというほうが正しいです。
ニーチェに対する思い、アラン・ワッツに対する思いなどとともに、ロレンスについても特別なものがあったのでしょうね。
もうすこしロレンスの周辺もめくってみたいと思います。
投稿: Bhavesh | 2009/04/19 21:12
DH ロレンスは昔かなり読みました。性の抑圧に対して果敢に挑んで、自身の衰弱していく肉体とも戦いながら最後まで太陽と性の明るさに向かって燃焼したという印象です。今は「息子と恋人」、「チャタレイ夫人の恋人」など、理屈っぽいという印象以外、あまり記憶に残ってないですが、ヘンリー ミラーの「ロンレス論」が情熱的でとても良かったという憶えがあります。
ロレンスの時代としては(特に抑圧的なイギリスで)、時代の先を進む孤高の天才だったのだと思います。
投稿: チダ | 2009/04/19 10:59