超宇宙論<2>
「超宇宙論」 <2> ―魂の科学を求めて
P.D.ウスペンスキー (著), 高橋 克巳 (翻訳) 1980/08 工作舎 389p 新装版1990/11
「新しい宇宙像」2002/06という新訳本があれば、旧訳書はその役目を終わるのかも知れないが、原書も読まず、新訳だって、その価値を十分理解できなければ、二つ並べて比較検討してみる価値はあるかもしれない。ということで、この2組の本たちをながめていた。
<旧訳への思い> 出版された当時の日本の読書界のことを考えれば、あの時点でこの本がでたということは、大きなできごとであったことは間違いない。このような著者の、このような本が、このような形で、このような時期に出版されるのだ、という既成事実を作ったことは、とても大きかったというしかない。 しかし、その「意訳」と言われる部分については、心理学をわざわざ「魂理学」としたあたりに、その意欲が感じられ、その意図はわかったが、他に追随する流れがないとなれば、やはり一時的な意欲に終わってしまった感は否めない。
それぞれの文組みのなかで、改行をしない、というのも文章としては読みにくいことも確かだ。これだけゴツゴツした難解な本なのだから、むしろ、もっと口当たりのよい方向に盛りつけを工夫してもらいたかった、という気分はある。でも、それは決定的なマイナス要素ではない。あえていうなら、この本の決定的な欠陥は、もともと3部作として計画されたのにも関わらず、初版時から10年を経て改訂版として再版されているのに、残りの2部がでなかった、というところだろう。
<新訳への思い> すでに旧訳を読んでいるからいいや、という安易な思いから、この本を手にすることが遅れた。もともと著者に対する関心がいまひとつもりあがらなかったから、あえて後回しにしていた、ということもある。あるいは、この感覚は、私だけではないかも知れない。旧訳のイメージが強すぎるのである。であるからこそ、この新訳チームは敢然と立ち上がったのだろうが、その意欲は大いに感じられる。
なにせ、旧訳で読むことができなかった部分も完訳されているので、これはありがたかった。ウスペンスキーはこの時点で、こんなことを書いていたのか、という貴重な部分が多々ある。タロットであるとか、タジマハールについてであるとか、新訳を読まなかったら、完全に見落とすところだった。それに文章も読みやすい。なるほど、こういう世界であったか、と再認識することしきり。
<比較検討してみて> 旧訳は必ずしも悪訳とは言えないのではないか。あの時点でこのような形になっていた、という功績は、この本にしか与えられることはない。読みにくいけど、読みにくいことがひとつの特徴になっているのではないだろうか。この本はこの本として、その存在価値がなくなることはないだろう。あえて言うなら、残りの未刊の2部も、頑張って出してほしい、とさえ思う。
新訳を良訳と断定するのも早すぎるのではないか。すでに古典の域に達しているウスペンスキーを現代語に置き換える作業の中では、なんらかの「意訳」が起きていることは容易に推測できる。日本の時代で言えば、明治末期から書き始められ、ほとんどが大正年間にまとめられ、そして昭和の初期に出版された本である。万が一、この本が日本語ででて、それをそのまま現代人が読んでも不都合なことがたくさんあるだろう。
つまり、私が将来的に時間に余裕ができ、しかも、どうしてもこの本が気になってしかたない、となれば、この2組をもっと細かく読み比べてみるだろうと思う。そして、その互いの相違点の中から、新しい何かの発見がありそうである、と期待する。もちろん原書で読めればなおいいのだろうが、それは私には無理である。だから、いつも翻訳チームには感謝している。
そして、ウスペンスキーだが、たとえば並び称されるところが多いシュタイナーなどと比較検討してみるのも面白いだろう。シュタイナーの「神秘学概論」で笠井叡が解説しているように、ウスペンスキーもまた、読者によって読みなおされ、それぞれのまったく「新しい宇宙像」が書かれることを期待しているのではないだろうか。
速読、多読、乱読をよしとしている現在の当ブログであってみれば、一冊の本に長くこだわるというスタイルはとりにくい。しかし、精読、研究、とまでは言えないまでも、気になる本はいつまでも気になるものである。この本たちが今後、当ブログの中で、どのような存在に変化していくかは分からないが、当ブログ自体は、まさに、自分なりの「新しい宇宙像」探究の途上にあることは間違いない。
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