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2009/05/25

ムガール宮の密室<2>

<1>よりつづく 
ムガール宮の密室
「ムガール宮の密室」<2> ミステリー・リーグ
小森健太朗 2002/08  原書房 単行本 270p

 ウスペンスキー「新しい宇宙像」下巻を読んでいたら、「タージ・マハール」という一章があったので、最近目を通したこちらの小説を思いだした。メインの骨子は、タジマハールの施主であるムガール帝国皇帝シャー・ジャハンと、ペルシャを国外追放になったスーフィーのファキール、サルマッドの話だが、そこに小森小説お得意のの密室殺人事件が絡んでいる。どこまでが、資料などをもとにした史実として書かれ、どこからがフィクションやら、メタフィクションとして書かれているのやら判別としないが、それほど目くじらを立てながら、うんうん唸りながら読む小説ではないだろう。

 1900年代初頭にタージ・マハールを訪れたロシアの思想家P・D・ウスペンスキーは、著書「新しい宇宙像」の中で以下のような感想を述べている。
 「(略)あらゆることを調べたにもかかわらず、何かはっきりしない気持ちが残った。アグラやタージ・マハールについてあらゆることを読んだ。(略)
 ここには神秘があるように私には思われた。タージ・マハールには誰もが感じられる秘密があったが、誰もそれに名づけることはできなかった。(略)
 それは何なのか? それについてはなるべく考えないようにした。既成観念を作りたくなかったからである。しかし何かが私を魅了し、高揚させた。確かなことは言えなかったが、私にはタージ・マハールの神秘は死の神秘に関係しているように思われたのである。それは、ウパニシャッドの表現に倣えば、『神々ですら以前は不思議に思っていた』神秘であった。(略)
 そのとき突然、私とはまったく関係なく、何かが私の頭の中で形成され始めた。(略)
 その瞬間私は、魂は肉体の中に閉じ込められているのではなく、肉体は魂の中で生き、動いているのだということを理解した。そして、古い書物の中で読み、私の心を捕らえた神秘的な表現を思い出した
。(略)」p221~p224

 邦訳からの引用部分を、さらに孫引きして、なおダイジェストしてしまったので、原文の真意をゆがめてしまっているかもしれないことを大いにおそれる。だが、つまりは、この辺がきわめて重要なインパクトのある部分であるはずなのである。

 ウスペンスキーの旅行記に、というより、シャー・ジャハン帝の妃・ムムターズ妃の霊廟として作られた霊廟には、たしかにイスラム神秘主義の「秘教」が見え隠れする。私がタジマハールに滞在したのは約30年前だけども、ウスペンスキーが訪れたのはそれをはるかにさかのぼること1900年代初頭。今から100年も以前のことだ。そして、この霊廟がつくられたのは、それよりはるかに数百年さかのぼるところの17世紀である。時代を超越しながらも、いまだに何かのエネルギーを発し続けているのは、驚異的なことだ。

 邦訳「新しい宇宙像」下巻と、こちらの小説「ムガール帝国の密室」は、おなじ2002/08に出版されている。旧知の作家同士であるならば、連絡しあいながら出版された2冊ということだろうし、お互いが刺激し合って作られて書物群ということになるのだろう。

 本小説においては、スーフィーのファキール、サルマッドについての記述も多くあるが、これらの多くは英語文献からの翻訳であり、日本語で触れられるのはほとんど最初のことだ、ということだ。これらの「史実」に触れることによって、ますます内なるインド像がリアリティを増してくるように感じられる。

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