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2009/05/06

英文学の地下水脈<1>

英文学の地下水脈
「英文学の地下水脈」 古典ミステリ研究~黒岩涙香翻案原典からクイーンまで<1>
小森健太朗 2009/02: 東京創元社 単行本 244p
Vol.2 No.602★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆

 2001年から2005年あたりまでの初出文献がまとめられている一冊。一部2008年に書かれたものや、今回の書き下ろしの部分もある。やはり、読んでいて書き下ろしの部分は新鮮であるし、ちょうど当ブログの関心事とかさなる部分も多い。

 神智学協会は、広く世界に支部をもち、日本では仏教学者として著名な鈴木大拙が、神智学協会の日本支部長をつとめていた。鈴木は仏教学に傾倒する以前は、スウェーデンボルクなどの心霊主義にのめりこみ、「天界の(ママ)地獄」などの翻訳をしていることが知られている。鈴木大拙の妻・ベアトリスは、神智学協会で秘書をつとめたこともある神智学徒である。P161

 うすうす気がついてはいたが、大拙についてここまで言い切っている文は、個人的にはこれ以外に知らない。他でもこの件に触れているので、著者としては気になる部分なのであろう。

 この本が「英文学の地下水脈」というタイトルであるかぎり、ひょっとすると、当ブログの隠しテーマでもある「来るべき民族」ブルワー・リットンについて、なにごとか触れているかな、と思って巻末の人名索引をみたが、

 ブルワー・リットン・・・・「ポンペイ最後の日」「ザノーニ」他29作。 P108

とあるだけであった。「ポンペイ最後の日」「ザノーニ」などの29作の中に、かの一文も入っているはずであり、機会があったら、著者に尋ねてみたいものだ。

 この本も、さまざまな予備知識や読書体験があれば面白かろうが、当ブログとしては、圧倒的に読み込みが足らない。もしこの本に糸口をつけるとすれば、ズバリ、第一部第一章の「ルイス・キャロル論」からだ。Oshoも「不思議の国のアリス」を例の「私が愛した本」168冊の中にキチンと入れている。

 全国の大学図書館を所蔵を調べたが、東大の図書館でコレリやブラッドン作品が一部所蔵されていたくらいで、ほとんど入手できないものばかりだった。

 その状態に変化が訪れたのは、インターネット環境が整ってきた1995年以降である。英米の古書店のサイトには19世紀の古い作品をあつかっているところがいくつかあり、価格も、大体1冊数十ドル程度のものが多く、新刊書籍を買うよりは高くても、手が出せないほど高価でないものがかなり見つかった。

 それらの本を漁るうちに、涙香の作品の原点---多くは幻の作品とされたり、原著不明だったものが相当数見つかり、入手して読むことができるようになった。これらの作家・作品に関しては、日本国内でも英米でも、まともに論じられたことがないものばかりである。そこで、これらをテーマにして、評論を書きたいと思うようになったのが、一つの契機である。
「序文」p7

 著名作家にとってもインターネット環境の整備は大きく影響しているようだ。当ブログは、英米の埋もれた文学を対象にしているわけではないが、コンテナとしてのブログ機能と、コンテンツとしての図書館ネットワークの発達がなければ、存在していなかった。ここからは、インターネット環境が整備されたからこそ可能となったはずの「コンシャスネス」とは、という命題が明確になっていくことを期待する。

<2>につづく

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47)表現からアートへ」カテゴリの記事

コメント

ENI さん

神智学協会については、あちこちで登場するので、気になる存在ですね。よくわからないなりに、ざっと分かる範囲内では理解しておきたいと思っています。

小森さんはあの「小森さん」だと思うのですが、確証はありません。
(*゚ー゚*)


投稿: Bhavesh | 2009/07/10 00:05

こんばんは、Bhaveshさん。

先日のコメントと同じ内容の部分を抜粋されていたのですね。この本を書かれている小森さんという方は、コメント欄でちょくちょくお目にかかる小森さんなのでしょうか?

投稿: ENI | 2009/07/09 23:50

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