« 列子<2> | トップページ | ギーターンジャリ<1> タゴール詩集 »

2009/05/16

スーフィズムをめぐる思想と闘争

Photo_2
「メフィスト」 小説現代 2009年1月増刊号
「スーフィズムをめぐる思想と闘争」小森健太朗 2008/12/11  講談社 雑誌 1152p
Vol.2 No.624★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★☆

 この雑誌、闇の中に光を放つことを自らの価値と任じている、かどうかは知らないが(笑)、なんと、表紙の「M」の文字が大きく夜光塗料で印刷されている。読み疲れて、脇によけて、ライトを消すと、ジンワリとこのMの文字が光り出す。

 講談社が発行する「小説現代」の増刊号。ミステリ、ハードボイルド、ファンタジー、SF、伝奇など、広義のエンターテイメント作品が集められており、「メフィスト賞」というものも主宰しているので、新人作家の登竜門にもなっているようだ。

 この雑誌の中に小森健太朗が「スーフィズムをめぐる思想と闘争」p912という8ページにわたるエッセイを書いている。この「メフィスト」読者でなければ深く理解できないようなメフィスト地方言語もちりばめられているが、一般的なミステリーやいわゆる探偵小説などをさまざまな角度からつなぎ止め、いわゆる小森ワールドの全体的な紹介や見取図となっている。

 ジュナイドはむしろ「素面(しらふ)であれ」と説き、両者には対立があった。それでは、ジュナイドは、弟子の「我は真理なり」の宣言にどう対したのか。ハッラージが瀆神の罪で処刑されたときには、既にジュナイドは物故していたが、ハッラージはジュナイドのもとに学んでいるときに既に「アナー・アル・ハック」を宣言していた。それに対してジュナイドは、「私もまたそれが正しいことを知っている。しかし、それを人前で宣言するのは控えよ」とハッラージにさとしたという(註2)。p913

 ジュナイドもアル・ヒラジ(ハッラージュ)・マンスールも、Osho「私が愛した本」にはリストアップされているが、現在のところ当ブログがアプローチすべき日本語文献は見つかっていない。ところで、ここで(註2)となっているので、文末を見ると、英語版の「私が愛した本」がちゃんと紹介されている。

(註2) "BOOKS  I  HAVE LOVED"  by  B.S.RAJNEESH, RF ,p112

 ここでのページ数は英語版なので、対応する部分は邦訳版だとこうなる。

 6番目。もうひとりのスーフィーの神秘家、アル・ヒラジ(ハッラージュ)・マンスールの師、ジュナイドだ・・・。アル・ヒラジは殺されたために世界的に有名になった。そのためにジュナイドは陰に隠れた。だがジュナイドの言葉で残っているもの、2、3の文章、その断片は実に偉大だ。そうでなくて、どうしてアル・ヒラジ・マンスールのような弟子を生み出すことができよう? ほんの2,3の話と詩と言明(ことば)が残っており、すべて断片的なものだ。

 それがこの神秘家のやり方だ。それらをひとつの全体として結び付けることにすら関心がない。彼は花輪を作らない。ただ花を積み重ねるだけだ。その花を選ぶのはこちらの仕事だ。

 ジュナイドは、アル・ヒラジ・マンスールに言った。
 「お前が知ったことは、自分の胸に止めておきなさい。我は神なり(アナルハック)、と大声で叫んではならない。それを言うときは、誰にも聞こえないように言うことだ」と。これまで誰もジュナイドに対して公平ではなかった。人はジュナイドが少し恐がっていると思った。そうではない。真理を知ることはたやすい。それを宣言することはたやすい。それを人に言わず自分の胸に止めておくことは途方もなくむずかしい。自分の存在の泉に、その沈黙の許に、来たい人々が来るにまかせるということは。
p113

 続いて、マンスールの部分も転記したいのだが、それは別な部分に譲ろう。いずれにせよ、この「メフィスト」特別増刊号の読者が、どれだけがこの小森の文章に気をとめ、このジュナイドとマンスールの話に関心を持ち、巻末を見、英語版の「BOOKS  I  HAVE LOVED」に気づき、邦訳「私が愛した本」を手にとり、さらには、ネットをググって当ブログにおけるこの日記に気づいてくれることだろう。

 かぎりなく遠い円環だが、絶対ないとは言い切れない。それにしても、このコラムでも展開されているスーフィーの世界などにおける現代的理解は、一生懸命さがした結論ではないけれど、ざっと見るとかなりすくないように思う。それを考えるとサルマッドを描いた小森「ムガール宮の密室」などはかなり貴重な存在になると思われる。

 このコラム、短文ではあるが、当ブログとリンクする部分が、このほかにもいくつかあるが、そのうちに順々にほどかれていくこともあるだろう。

|

« 列子<2> | トップページ | ギーターンジャリ<1> タゴール詩集 »

49)ブッタ達の心理学2.0」カテゴリの記事

コメント

Osho「私が愛した本」の翻訳編集スタッフの一人でもある小森氏とのやりとりの中で、氏本人から教えてもらった記事です。
普段の私ならとても目を止めるような記事ではありませんし、私自身、この記事の良き読者とも思えません。
教えていただいた氏に感謝しつつ、自分の忘備録としてメモしておいた文章です。

投稿: Bhavesh | 2016/05/08 16:44

「どれだけがこの小森の文章に気をとめ、このジュナイドとマンスールの話に関心を持ち、巻末を見、英語版の「BOOKS I HAVE LOVED」に気づき、邦訳「私が愛した本」を手にとり、さらには、ネットをググって当ブログにおけるこの日記に気づいてくれることだろう」ですか。

あなたがしているのはエゴ・トリップです。それに気づいた方が良いでしょう。

投稿: なか | 2016/05/08 15:13

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スーフィズムをめぐる思想と闘争:

« 列子<2> | トップページ | ギーターンジャリ<1> タゴール詩集 »