ネメシスの哄笑
「ネメシスの哄笑」
小森健太朗 1996/09 出版芸術社 単行本 235p
Vol.2 No.589★★★☆☆ ★★★★★ ★★★★★
いやはやヤラレたよ。図書館から借りてきたのは良いけれど、読むか読まないかチラッとみて明日決めようと思ったのに、表紙をめくったのが間違いだった。せっかく床に横になり眠くなりかけていたのに、最後の最後まで読み切ってしまった。(◎´∀`)ノ
「なお、この小説はフィクションであり、実在する人物・団体・事件とはいかなる関係ももたないことを、最後に付記しておく」とはなっているものの、どうもこのコメントすら怪しいものに見えてくる。作家から出版社や、同級生や恩師まで、なにやらかにやらまでが実名ででてくるので、どこからどこまでが真実やフィクションやら。これはミステリー小説の常套手段なのか、禁じ手を使っているのか、そんな初歩的なことすらわからない私ではあるが、まぁまんまと最後まで読み切ってしまいましたよ。
以前よりこの作家に関心を持っていたのは、彼がどうやらOshoの「私が愛した本」の中の本を題材にすることが多いようだ、と気がついたからだった。この本がでた1996年当時でも、奥付けを見ると、Osho激薦のミハイル・ナイーミ「ミルダッドの書」やカリール・ジブランの「漂泊者」などをすでに翻訳している。
村上春樹は、イスラエル賞の受賞式において、自らをプロの嘘つきと自己紹介したが、当ブログはこのような「嘘つき」たちとのお付き合いは慣れていない。しどろもどろするだけだが、嘘でなければ表現しきれない真実というものも、この世にはあるらしい、と少しは気がついている。ゲシュタルトが転じて、嘘から出たマコト、なんてこともないとは言えない。
最近の情報によれば小森は「私が愛した本」168冊を集めきったという。英語本やヒンディー本などは最初からあきらめている当ブログではあるが、あるかないかさえ明確でない本をも含む、これらの168冊を集めるのに、20年かかったという。w(゚o゚)w オドロキ その情熱には圧倒される。
この小説は、表紙の絵のとおり、本好きの人たちがいっぱいでてくる。なんせ自らの蔵書が崩れて死んでしまう、という設定なのだから、凄い。しかも、ひとりだけではない。本好きには失笑してしまうシーンが次から次とでてくる。このような風景は、きっと作家本人の状況かもしれないなぁ、と察してみる。
当ブログは、現在のところ1600冊ほど読みこんだが、そのほとんどは図書館から借りてきた本である。自らすでに持っている本と、どうしても読みたいのに、どうしても図書館ルートでは借りられない本は何冊か購入しているが、入手困難な本の深追いはしていない。なるべく蔵書もしない方針だ。近くの公立図書館が私の図書館である。最近の図書館ネットワークの発達にはとても感謝している。
今回、当ブログは、たとえば、ブログ・サービスでも有料ソフトなり有料サービスを使えば、もっと便利な機能があることは分かっているのだが、あえて、無料サイトを利用している。読書ブログとして読みこむ本も、基本的には、公立図書館の一般開架コーナーでだれでも読める本を中心に読みすすめている。逆にトンデモ本でも、一般の目に触れるものなら、一度は手に取ってみよう、という精神だ。
だから、コンテナ、コンテンツに合わせて、当ブログの三本柱のひとつであるコンシャスネスにおいても、あまり高踏なことや秘儀にまつわるあれやこれやは深追いしないことにしている。お手軽で、だれにでも手がとどきそうな世界観がお好みなのだ。
この本の登場人物たちのように本に埋もれて暮らしている人たちもいることは、決してフィクションではないだろうと思う。しかし、もしGoogleブックサービスなどが発達したら、夏目漱石とか芥川龍之介のような、どこでも手にはいるような本ではなく、あのどうしても手に入りにくそうなヒンディー本やら稀少本やらがネットで見れるようになるといいのにな、と首を長くして待っている。それこそがインターネットの特性ということになるやもしれない。いろいろ問題はどこまでもつきまとうが・・・。
この「ネメシスの哄笑」をめくってみようかな、と思ったのは、この表紙の絵に誘われたところもある。なんともアイロニックでかわいい。じつはこの画家についてはちょっとだけエピソードがあって、最近、とある投稿誌の雑誌に娘が入選して見開きページに掲載してもらったのだが、その時に全面のカラーイラストを添えてくれたのが、この画家だった。小説の中にも、ある売れない中年の小説家とその娘が登場していた。そんなことも、なんだかどっかで聞いたことあるような話だなぁ、とついつい、寝ぼけ眼が次第にパッキリしてきて、最後まで読み切ってしまった理由の一つだった。
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