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2009/05/26

ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿

ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿
「ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿」 
S.S.ヴァン・ダイン /小森健太朗 2007/08 論創社 単行本 265p
Vol.2 No.639★★☆☆☆ ★★★★☆ ★★☆☆☆

 翻訳者つながりで頁をめくってみたものの、本の存在を確認したのみで、当ブログの流れとしては必ずしもタイムリーな本ではない。しかし、いままで何度も体験したことだが、何の気なしにメモしておいた本が、ひょんなことで極めて貴重な位置にある本であることが、あとで分かったりするので、メモだけはしておかなくてはならない。この辺に乱読の楽しみがあるわけだが、「本」に対する態度は当ブログにおいて、いくつかの段階があるようだ。

1)それを知らない。聞いたこともない。

2)どうやらそのような本があるらしい。あってしかるべきだ。

3)たしかにその本はあるらしい。あったらしい。

4)その本には関心がないし、読まないだろう。

5)ひょんなことで、その本についての具体的な情報を得る。ネットで検索。

6)たまたま図書館や書店で、その本を手にする。

7)ぱらぱらめくってみる。立ち読みするが、いまいちピンとこない。

8)つい引きづり込まれる。長時間立ち読みしてしまう。

9)図書館にリクエスト。とりあえず買って積んでおく。

10)読む。面白い。新しい世界が開ける。

11)またリクエストして、また取り出してきて読む。何度も読む。

12)新しい意味を発見する。新しい読み方が分かる。

13)じっくり読む。傍線をひく。付箋を貼る。

14)いつも手元に置きたくなる。座右の書とはこういうものかと思う。

15)他人の意見を聞きたくなる。他人に話したくなる。ネットに書く。

16)これくらいなら自分でも書けるのではないか、と思う。せめて、評価だけでもしておく。

17)どうしても読みたいのだが、見つからない。リクエストしてみるが、絶望的。

18)ようやく見つかって狂喜する。飛び上がるほどうれしい。

19)せっかく入手できたのに、読めない。読んでも分からない。面白くない。

20)その本の存在を確認した。読んで理解せずとも、その存在がうれしい。

21)本が自分に溶け込んでくる。あるいは自分が本に溶け込んでいく。

 と、まぁ、思いつくまま列挙してみた。その他にもいろいろあるだろう。当ブログにおいてメモし続けている本の大半は、6)、8)、10)あたりの本である。1)~5)については、ほとんどメモしていない。11)~15)あたりになれば、お気に入り本の仲間入り、ということになる。17)や19)レベルの本も結構ある。あまり深追いしないのが当ブログの方針だが、時には、深追い、深堀りしたくなる本や著者にも巡り会う。

 さて、翻訳者において、ヴァン・ダインというアメリカの作家(1887~1939)はどのあたりにあるだろうか。まずは2)あたりから始まっているだろう。5)や9)、12)などのレベルを通り越し、翻訳に情熱を燃やしているのだから、16)などは当たり前ともいうべきか。18)なども通り過ぎて、今や、21)の領域にも到達しているかの気配がある。それ以上のレベルももあるのだろうが、今のところ、当ブログの想定外だ。

 はてさて、本書は当ブログにおいてどのレベルであろうか。はっきり言って著者については1)である。翻訳者つながりでいえば7)あたりということになろうか。すでに手にしてぱらぱらめくったのだから、19)は酷評としても、まずは図書館ネットワークで読めることを確認したのだから、20)あたりのランクインしていることにはなるだろう。具体的には、9)レベルの本ということになる。

 ミステリー作家の作品ということだが、ここで取り上げられているのは、どちらかと言うと創作というより、ノンフィクションに通じるものがあり、読んでいてはリアリティがあって読みやすい。佐野眞一ほどの周到な粘着質なものは感じないが、佐木隆三的な猟奇的野次馬性は感じる。むのたけじほどの信念は感じられないし、ブログ・ジャーナリズムが今すぐお手本とすべき内容があるとも思われない。

 事件や小説なら巷に山となって溢れている時代であり、あえて、フィクションかノンフィクションかわからないような事件簿をめくって、当ブログが得られるものは少ない。しかし、このような文芸の世界にあって、このような作家が存在したこと、このような作品群をのこした(らしい)こと。そして、半世紀以上の時間を経て、一人の作家を異国の後世の作家が検索して一冊の短編集を世界で初めて出版してしまうことができる、ということ。これらの副次的な「事件」にこそ、関心を寄せてみるべきだろう。

 巻末に「ウィラード・ハンティントン・ライトの著作概観と『ニーチェの教え』」p265がついている。これは、ヴァン・ダインが別名で発表した文章であるが、ニーチェを極めて高く評価している翻訳者が(上のランクで言えば21)を超えていくだろう)、 この文あたりから、なお一層この作家に惹かれていった所以があるかもしれない。

 翻訳者のいつもの小説で、メタフィクションとやらにドンデンガエシを食らっている、一番末席に座る読者のひとりとしては、どこからがフィクションでどこからが事実(なにをもってそういうかは、また別の問題だが)なのか、読んでいて、なかなか気が抜けない。別名を持っていたり、自分の名前を使わせながら、他の作家に作品群を書かせたりしたというヴァン・ダインのどこかトリッキーな存在が、翻訳者の好みのなにかをヒットするのだろうか。

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