炎の人ゴッホ<2>
「炎の人ゴッホ」 <2>
アーヴィング・ストーン /新庄哲夫 1990/07 中央公論新社 文庫 831p
読者のみなさんはさだめし疑問を抱かれたことであろう。「この物語は果たしてどこまでが事実だろうか」と。p819
たしかに、滑り出しが上々で、最初の最初からこの疑問には付きまとわれた。伝道師を目指して炭鉱に赴くあたり、そして炭鉱で働く人々の生活風景や、炭鉱の中に降りていくあたりなどは、当時の炭鉱の生活そのものに対する興味もともなって、ぐいぐいと物語に引きづり込まれていった。
だが、その伝道師になるという道も断たれ、憔悴しているところを、弟セオが訪問するあたりになって、その口調が私の周囲にはない調子なので、なんとなく違和感を感じ始めた。
技法上の自由を許していただいたほかは、この物語はすべて事実である。p819
何をもって事実とするかはさまざまな考え方があれど、この姿勢こそが、この伝記小説を読ませる力でもあるし、また伝記小説という地位にとどまっている理由でもある。ジャーナリズム的な意味では「事実」であっても、存在論的には、すでに一つの体験を再現されている、という意味では、すべてにおいて「事実」ではありえないことになる。
ただこの伝記小説が出たのは1934年であり、アメリカにおいてまだ無名だったゴッホをこのような形で紹介したのは、とても大きな業績であろう。3年ちょっと前にこのブログでも、ゴーギャンを描いた「月と六ペンス」を読んだ。
人生に失望し、愛を失い、ゴーギャンに出会う。そして別れる。
映画「Lust for Life」 (1956)
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