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2009/08/12

カラマーゾフの兄弟<11>

<10>よりつづく

カラマーゾフの兄弟(5(エピローグ別巻))
「カラマーゾフの兄弟」(5)(エピローグ別巻)) <11>
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー /亀山郁夫 2007/07 光文社 文庫 365p

 巻末の「読書ガイド」込みとは言え、443p+501p+541p+700p=2185p、2千頁を超える大書を読み進める勢いで、最後のエピローグは読むべきではないだろう。訳者が、わずか55頁のエピローグを、最後の別巻として、独立させたところにその意義が感じられる。

 3章*4巻=12章でひとまず終了しておいて、ちょっと一息ついて、クールダウンしたところで、最後のエピローグをゆったりとした気分で読む。これだけの短い文章だと、何回か、ゆっくり読みたくさえなる。これが第4巻の巻末についていたら、あの勢いで、一気に読んでしまうことになるので、なにか、読んでいる意味が違ってきそうだ。

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 「カラマーゾフの兄弟」を検索すると、埴谷雄高の「死霊」がヒットする。友人と雑談していて分かったことだが、どうやらかの有名な小説「死霊」は、「大審問官」の思索をもとにした観念的な小説的であるという。なるほど、大体の位置関係が分かってきた。つづけて、そちらも読んでみたいとも思ったが、すでに、別な図書が届いている。既定のスケジュールで、当ブログなりのプログラムをすすめていくしかない。

 第5巻の100頁ほどに渡る「ドストエフスキーの生涯」を読むと、あらためて、なるほど、と思いあたることがいろいろ出てくる。このような作家の人生を知らなければ、その作品の機微も充分理解できないことになる。

 同時代のロシアにはびこる自殺病から人々を救うため、一作家として何かを語らなくてはならない。何らかの救いの道を提示しなければならない。そうしたぎりぎりの想いから紡ぎだされた物語が、おのずからの自伝的色彩を強く帯びていたことはある意味で当然のことだった。なぜなら、自分を語るしかないこと、しかもおのれの「死と再生」の物語を示すことしか道がないということこそ、絶望の深さの表れだからである。第5巻p133「ドストエフスキーの生涯」

 4部からなる小説と、最後のエピローグ+解題がセットとなった、この新訳「カラマーゾフの兄弟」は、この第5巻が面白い。小説そのものは、どうも、コピーが繰り返されて、すこしピンボケになった写真を見ているような曖昧さも残る。ところが現代的に、21世紀的に、2007年的に解説されるドストエフスキーは、際立ってすくっと立ちあがってくるようなリアリティがある。

 もちろん、小説そのものより、解説のほうがおもしろいなんてことがあってはならないし、それでは、一読者として、かなりのサボりすぎというものだろう。それでは、小骨を取ってもらって魚を食べている幼児のようなものだ。まっとうにキチンと読むべきだろう。またの機会もあろう。

 さて、この様な長編小説をネット上のブログの中で読むという行為はいかがなものであろうか。ましてや、必ずしも今日的ではない古典を、ブログに書いてみたとて、実際のところ、アクセス数はぐっと減ったように思う。もちろん、頓珍漢な読書感にあきれ果てたというアクセス者もいるだろうが、それでもやはり、なにかがちょっと違うかな、と思う。

 大審問官は言う。「この地上には三つの力がある。ひとえにこの三つの力だけが、こういう非力な反逆者たちの良心を、彼らのために永遠に打ち負かし、虜にすることができるのだ。そしてこれら三つの力とは、奇跡、神秘、権威なのだ」 第5巻p305 「解題」

 たしかに大審問官については大いにひっかかる。イワンの口を借りて語られる大審問官の言は、もうすこし注意深くに再読されるべきだろう。

 何よりもあたしは、グローバル化と呼ばれる時代に、最後まで一気に読み切ることのできる「カラマーゾフの兄弟」の翻訳をめざしたかった。勢いが、はずみがつけばどんなに長くても読み通すことができる、そんな確信があった。 第5巻p360 「解題」亀山郁夫

 たしかに、新潮社版の「カラマーゾフの兄弟」を40年ちかく枕元に置きながら、今まで読み切ったこともなく、ましてや公然と小説嫌いを宣言している私が、いろいろな行きさつがあったといは言え、この光文社版で、「一気に読み切って」しまったのだから、翻訳者の意図はまんまと成功したことになる。

 とくに彼は、完全に「グローバル化と呼ばれる時代」を意識していたのである。この本を読書ブログとして、おたおたしながらも、読み通すことになったのは、必然であったかもしれない。感謝を込めて、評価しなおしておく。

Vol.2 No745★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

<12>につづく 

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