This Is It <1>
「This Is It」 and Other Essays on Zen and Spiritual Experience <1>
著者Alan Watts 出版年1996, 初版1960 出版者 Rider 形態 xii, 140 p. ; 20 cm. 言語: 英語 出版地 London
Vol.2 No751★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★☆
アラン・ワッツは20数冊の著書を持つ多作な作家だが、邦訳されているのは、当ブログが確認しているところでは、わずかに2冊と、かなり少ない。まるで日本人に人気がない、ということではないのだろうが、この作家の位置がいまいち日本の読者からすると、微妙なところにあり、ストレートに受け入れることができない、ということなのだろうか。
ワッツの動画も結構流通している。
『This is it』は途方もない美と理解の作品だ・・・・しかも光明を得ていない人間が書いたものだ。だからこそますます評価される。Osho「私が愛した本」p129
この本は1960年にでている。ワッツがZenやBuddhism、TaoやSatoriといったテーマで書いた小さなエッセイ集たちが、小さな本としてまとめられている。日本という風土に生まれ、日常的に触れている「仏教的」雰囲気と、ワッツ達、「東洋かぶれ」とも見えるZenびいきの連中の言には、大きな開きがある。
かたや墨絵的で保守的で、融通が利かない頑固爺さん的であり、かたやサイケデリックでカウンター・カルチュラルで、まったく型破りなヒッピーのにおいがする。この二つの流れが、互いに禅を語り、仏陀を語り、悟りを語る。同じことのはずなのに、何かが大きく違う。
日本の仏教はどこかドメステッィクで内向的だ。あまりにありふれていて、その本来の意味など、どっかに忘れされてしまい、ただその器だけがゴロゴロと転がっている感じさえする。いや、それはイメージであって、内部的にはさまざまな工夫もされているし、進化もしている。だが、数千年に渡る文化や伝統が、大きく舵を切る、ということはそう簡単なことではない。
それに比して、ワッツたちのBuddhismやZenやSatoriは、どこかハイブリットだ。つまり、欧米文化の中に、東洋精神を植えようとする、異種混合作業だ。エコカーとしてのハイブリッド自動車もまだまだ人気先行で 、本当の実績を上げるまでには至っていないが、地球人スピリットとしての、ハイブリッドZenも、すくなくとも、ワッツがこの本を出した50年前には、話題先行型のムーブメントであり、実質的な精神性がどこまで深化したかは、本当は定かではない。
話題性があったればこそ、西欧ではワッツはアイドル的存在に成りえたし、表面的であるがゆえに、日本(や東洋など)では、いまいちキワ物としての色モノ的位置を脱しきれなかった。しかし、彼(ら)が位置した価値は決して小さくない。ワッツが後半生を過ごしたエサレンなどを中心としたスピリチュアル・ムーブメントの盛り上がりも20世紀的な大きなイベントだった。
21世紀において、ワッツ達の一連の存在はそろそろ古典的な位置に後退し、本当の意味での、ハイブリッドな地球人スピリットが浮上して来なければならない時代になっている。まったく角度は違うが、すでにアメリカにはアフリカ系大統領・オバマが登場している。日本とて、墨絵的な箱庭的な世界にとどまってはいない。いまやクール・ジャパンだ。形や文化、伝統などを超えた、まったく新しい、まったく包括的な、より真実な、人類が歩み出す必要がある。
ワッツたちが残した業績は大きい。日本人たちにはその価値がいまいちわからない。彼らの東洋かぶれは、いまいち底が浅いように見える。それではまだまだ理解が足らないような中途半端さを感じる。だが、それはそれで大きな意味を持っている。ともすると、伝統や日常のなかに埋没してしまい、曖昧化してしまう東洋文化を、ふたたび視覚化し、浅いところまで引き上げてくれた。あらためて認識させられることが多い。
この本、小さくて読みやすく、分かりやすい。欧米人にとってはいまだに目新しく、再刊が続いていることも理解できる。しかし、ワッツ本人は、やっぱり生まれ変わって、この21世紀の地球人としてそのワークを継続する必要があろう。かつての色モノ的なハイブリット・スピリチュアリティが、地球上の本当のコモンセンスになる時代は、まだ来ていない。
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