八ッ場ダム ダムに沈む村
「ダムに沈む村」
豊田 政子 2005/04 上毛新聞社 単行本 99p
Vol.2 No763★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
ETC1000円の旅で行ってみたいところはいくつかあるが、そのうち群馬県の温泉街を訪ねてみようと思っていた。最近、私にとっては突然の八ッ場ダム問題が表面化し、いままでこの問題があることさえ気がつかなかった。そのダムに沈むことになっていた川原湯温泉というものがあることを知り、ああ、この温泉に泊まるのもいいかな、なんて、ちょっと野次馬な、ちょっと不謹慎な発想が湧きあがってきた。
さっそくネットで検索してみると、「小さな民宿 雷五郎」のホームページがでてきた。ここの女将さんが書いたという詩集がある。その名も「ダムに沈む村」。ここ一カ月ほど、図書館へ行く回数がめっきり減って、すこし仕事にでも精をだそうかな、と思っていた矢先だが、検索してみると、近くの図書館にもこの本が入っていた。
17歳の 暑い夏の日
学校から帰ると 上がり框で
お祖父さんから「ダム」という言葉を
初めて聞いた
ダムって家もすべてのものが沈んでしまう
恐ろしいことだと
ぼんやり わかった p14 「暑い夏の日」から
何年後かに
私の住んでいる村も
対岸の川原畑村も
ダムの湖底に 沈んでしまう
川と共に生活してきた私は
たまらない複雑な気持ちで
一人 何時までも
吾妻川をみつめている p32 「吾妻川」より
急な坂を登って 橋を渡り
賑やかな温泉街を通り抜けると
地質ボーリンする音
ダム造りが歩み始めた
初めてその音を聞いたとき
私の体に メスを入れられたような
痛く 重く苦しい気持ちになった p36「現実」より
吹雪の日
次女を背負って長女の手を引き
ダム反対のデモに参加した日
なぜか涙がポタリポタリと落ちたことだけ
はっきり覚えている
あれから40年が過ぎ
私の生まれたこの村は
ダムになることがきまって
今ではあちこちで
調査や測量がはじまっている p45「吹雪の日」より
春の畑は 綺麗に耕されて
馬鈴薯を植える
土の上に立つ時
この畑がダムの湖底に沈むのだと思うと
私は たまらなく淋しい
春だというのに p69 「春だというのに」より
秋晴れのある日
八ッ場ダムではじめて
村の中ほどにある
一軒の家の
家屋解体がはじまった
村人は少し離れた
三ッ堂石仏群のある高台に
五人 十人と集まって見守った p72「家屋解体」より
ダムで解体されて
消えてしまう学校
同級会で集まった12人で
木造校舎を背に
記念写真を一枚写した
そして秋晴れのあの日
むしろ旗を立て
この校庭に決起した
八ッ場ダム建設反対住民大会
ものすごい人数で
熱気を発散させながら壇上へ
今も鮮烈に思い出す p76「木造校舎」より
この歴史ある集落は
日々ダム工事が続いて
家はもちろん
山も 川も 谷も 畑も
すべてのものが
消えようとしている
ふるさとが湖底に沈むということは
こんなにも苦しくつらいものなのか
音の中で私は
立ちつくしている p83 「音の中で」より
雑木林を一歩出ると
真夏の太陽は照らし
今日もダム工事の音はつづき
この地球上から
また一つ
自然は消えてゆくのだ p90「雑木林」より
私の生まれた
ダムに沈む村は
美しい渓谷と
ひなびた小さな温泉場
6月になると仏法僧は鳴き
山に大好きな山野草が
咲きみだれる
ダムに沈む村の家は
今日は一軒
明日は二軒と
解体されて
基礎石だけが
無言で
すべてを物語っている p94「ダムに沈む村」より
個人的には、降って湧いたような突然のテーマだから、容易には意見を言うことはできない。もうすこし様子を見たり、できれば自分の足でその地を見てみたい。その上で判断するとしても、当ブログとしては、民主党のマニュフェスト通りの結論になるのが、結局いいのではないか、と思う。
何千億円という、気が遠くなるような数字と、山間のひとりひとりの質素な暮らし。その対比にただただ驚く。そして、自民党の長期政権下にあっても、なかなか解決できなかった問題だ。仮に、すでにその目的の明確性を失ってしまったダムが出来上がったとしても、その維持費が未知数の障害となる。
ダムに沈むとされる375の世帯のことばかりではなく、他の熊本の川辺川ダムのほか、建設予定とされる100以上に渡るダムの見直しは、やっぱり必要だろう。
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