心を生みだす脳のシステム 「私」というミステリー <2>
「心を生みだす脳のシステム」 「私」というミステリー <2>
茂木健一郎 2001/12 日本放送出版協会 全集・双書 277p
正直に書いておこう。はっきり言ってこの本、面白くない。なんだか、私の脳には入ってこない。いくら読んでも共感できる部分が少ない。テーマ自体は相当に面白いはずだし、リクエストしてから手に届くまで楽しみにしていた本ではある。なのに、なぜか、放りだしたくなるほど、面倒くさい感じがしてしまう。・・・・・ なぜなのだろう。
1)勉強不足で書いてあることが理解できない。
2)まったく関心のないことが書いてある。
3)書いてあることがウソくさい。
4)著者に信頼を置いていない。
5)アプローチの方向が違い過ぎる。
6)結局、何もわかっていないのではないか、という疑惑を持っている。
7)テーマ自体が本質的に成立しないものに挑戦している。
などなど、いろいろな理由を考えてみる。
1)勉強不足で書いてあることが理解できない。
勉強不足であることは否めないが、同じ時期の同じような傾向にあるだろう、田中伸和の「未来のアトム」を読んだ時のような興奮やリアリティがない。実際にアトムのようなロボットを作ろうとする田中の試みに対して、茂木の試みには目に見える「成果物」がない。あえていうなら、茂木健一郎というソフトを、ハードとしての社会がどのように実体化するか、という実験を行っているようではあるが、田中の試みがほぼ可能性がないように、茂木の「本当の試み」も、実は失敗し、実現不可能な隘路に入り込んでいるのではないか。
2)まったく関心のないことが書いてある。
心や私というテーマは多いに関心はあるのだが、そのテーマを脳科学の様なレベルに落としこまれると、自然とこちらのハートが閉じる。リナックスのアルゴリズムは読めなくても、それを空いているパソコンにインストールしては、「実態」としてのリナックスを味わえるような形で、茂木健一郎を、なにかのハードに落とし込んで、とりあえず「使ってみる」ということができない。
3)書いてあることがウソくさい。
ウソということもできないが、ホントウ、と納得することもできない。実験するセットを持っていない。脳を切り開いてみることもできなければ、電極をつけてグラフに表すこともできない。カエルだろうがゴリラだろうが、あるいは本物の人間であろうが、専門家がこうだ、と言っているだけでは、強引なセールスマンが勝手に怒鳴り散らしているだけと同じだ。
4)著者に信頼を置いていない。
たしかに、一読者として著者に関心を持ったのは、どうして茂木健一郎はこれほど「売れているのだろう」という疑問からだ。売れっ子過ぎる。他のライバルたちは何をしているのか。茂木健一郎の独り勝ちだ。だけど、本当にそれだけ面白くて、真実をついたものだろうか。疑問は残る。
5)アプローチの方向が違い過ぎる。
茂木の処女小説「プロセス・アイ」などに目を通すと、なんだかとても共感するし、世代は若干違うが、社会的な体験も同時的に共有しており、感性もかなりすり寄って身近に感じることができる。しかるに、脳科学のニューロンだの前頭葉だのとなってくると、どうもいけない。読者としてのこちら側にその原因があるとしても、本当にこの人がこのテーマに取り組むときに、「脳科学者」という立場で取り組むのがベストなのかどうか、不思議な思いが残る。
6)結局、何もわかっていないのではないか、という疑惑を持っている。
究極の真理が「不可知」なものであるとすれば、「結局、何もわかっていない」のは正しい。しかしながら、茂木は「何も分からない」というところまで、自らのメソッドを純化していない。クオリアとやらの概念を乗り回してあちこち散歩するのはいいが、結局、世界に果てはない、という結論に達していない。ソクラテスの無知の知に至っていない。
7)テーマ自体が本質的に成立しないものに挑戦している。
本書のタイトル「心を生みだす脳のシステム 『私』というミステリー」というテーマはどうであろうか。著者は結論として、なにか言うべき結論を持っているだろうか。本質的に落とし所に落ちているだろうか。納得できる地点にいるだろうか。本人が納得し、周囲のものも納得できるような雰囲気になっているだろうか。
以上、そんなことを考えながら、ぺらぺら、めくってみる。
<3>につづく
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