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2009/10/20

単純な脳、複雑な「私」 または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義

単純な脳、複雑な「私」
「単純な脳、複雑な『私』」 または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義
池谷裕二 2009/05 朝日出版社 単行本 414p
Vol.2 No789 ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

 20年前に卒業した母校で、著者が後輩の高校生たちに語る、脳科学の「最前線」。
 切れば血の吹き出る新鮮な情報を手に、脳のダイナミズムに挑む。
 かつてないほどの知的興奮が沸き上がる、4つの広義を収録。
 裏表紙

 茂木健一郎の「心を生みだす脳のシステム」もそうだが、どうも脳科学というと、興味はそそられるのだが、いまいち納得感がない。あちらはすでに8年前に出た本だが、こちらはごく最近出された本なので、いくらか読みやすいかな、と思っては見たが、はてさて・・・・。

 たしかに、僕も職業について質問されて「脳科学をやってます」と答えると、結構多くの人から「え? じゃあ、私の心とか全部読めちゃうんですか」なんて訊かれるんだよね。もちろん答えは「はい、そんなの全部お見通しさ!」だよね・・・・ってなはずはなくて、残念ながら心は読めないんだな(笑)。

 むしろ、研究者は普段、実験室にこもって、世間や人々から隔絶された世界で仕事をしているから、かえって人付き合いが苦手で、空気を読めないタイプも少なくない。僕もそんなタイプかも。

 僕も脳科学をやる前は、やっぱり君と同じように、脳科学は心理学とか哲学といった分野に近い学問なのかなと思ってた。けど実際やってみたら、サイエンス、それもバリバリの理系の仕事なんだというのがわかってきた。もし脳科学だけで人の心が読めたら、カウンセラーとか、よく当たる占い師に転職したら儲かりそうだね。でも、そういうわけにはいかなかった(笑)。p92

 なるほど、そうであったか。脳科学そのものに対する理解ができていなかったな、と反省。

 幽体離脱なんていうと、オカルトというか、スピリチュアルというか、そんな雰囲気があるでしょ。でもね、刺激すると幽体離脱を生じさせる脳部位が実際にあるんだ。つまり、脳は幽体離脱を生み出すための回路を用意している。

 たしかに、幽体離脱というのはそんな珍しい現象じゃない。人口の3割ぐらいは経験すると言われている。ただし、起こったとしても一生にい1回程度。そのぐらい頻度が低い現象なんだ。だから科学者の対象になりにくい。

 だってさ、幽体離脱の研究がしたいと思ったら、いつだれに生じるかもわからない幽体離脱をじっと待ってないといけないわけでしょ。だから現実には実験にならないんだ。つまり、研究の対象としては不向きなのね。

 でも、研究できないからといって、それは「ない」という意味じゃないよね。現に幽体離脱は実在する脳の現象だ。それが今や装置を使って脳を刺激すれば、いつでも幽体離脱を起こせるようになってきた。 p175

 こんな場所ばっかり抜き書きしたら、この本の本質を捻じ曲げかねないが、著者の前書「進化しすぎた脳」2007あたりと合わせて読まないと、著者がいわんとするところの、本当のところは見えてこないかも。

 脳科学者のやっていることは、そんな必然的に矛盾をはらんだ行為だ。だから脳科学は絶対に答えに行き着けないことを運命づけられた学問なのかもしれない。一歩外に出て眺めると、滑稽な茶番劇を演じているような、そういう部分が少なからずあるんじゃないかなと僕は思うんだ。p399

 なんだかへんなところばっかり目についてしまったが、本著全体の理解の前に、なんとか、自分の立ち位置と、本著をつなげようとすると、こんなところに何とかリンクを張っておくことがまずは必要だと思う。

 最近の茂木健一郎の一連の著書は、どこか「滑稽な茶番劇」のなかに開き直ってしまって、本質的なところからどんどん遠ざかっているようにさえ感じている。脳科学というジャンルでは、茂木とこの池谷はどのような関係になっているのか知らないが、茂木(1962生)より若い分だけ、池谷(1970生)のほうがまだ新鮮で素直な感性が残されているように感じる。

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