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2009/10/13

年金被害者を救え 消えた年金記録の解決策

年金被害者を救え
「年金被害者を救え」 消えた年金記録の解決策
野村修也 2009/07 岩波書店 単行本 110p
Vol.2 No781 ★★★☆☆ ★★☆☆☆ ★☆☆☆☆

 「消えた年金」問題など、他人ごとだと思っていた。年金支払い対象期間については完全に把握しており、2冊あった年金手帳も、いくつかのプロセスを経て統合されたはずだった。しかし、実は私には、もう一冊、別の年金手帳があったのである。 

 30数年前、まもなく40年前になろうとする青春時代、ハイティーンだった私は、仲間とともにヒッチハイクで日本一周することになった。予定期間は3か月。しかし、親元を離れ、すでに仲間ともに共同生活をスタートしていた私は自分でその資金を稼がなければならなかった。そこで3カ月間だけアルバイトすることにしたのである。

 3カ月間の住宅費を含む生活費を稼ぎながら、旅行期間の住宅の維持費、そしてさらに旅費を稼ぐ。たしか3万数千円の手取り月給だったが、約10万円の稼ぎの中から、約その半分を持って旅に出たのであった。

 あの時、3カ月間だけアルバイトしたのだが、当時、アルバイト、という形式はあまり一般的ではなかった。3カ月間だけ勤めさせてくれと言ったら、断られることがほとんどだったと思う。なんにせよ、私は2カ月間の試用期間のあと、3カ月目から「正社員」になったことになる。しかし、この3カ月目を境に私は「退社」したのだから、その1か月だけ会社は「厚生年金」保険料を払ってくれていたのだった。

 これは、ごくごく最近、社会保険庁から送られてきた文書によって初めて知った。その可能性さえ考えてみたこともなかった。文書は確認を求めていたので、私は手元に保管していた当時の名刺をもとに「正確」に当時の会社名や住所・電話番号を記入して返送しておいた。これで、私の年金手帳に書き加えられることになるだろう。

 わずか1カ月なのに、よく発見してくれたな、という思いとともに、なんでまた当時から分かっていなかったのか、とちょっと怒りにも似た感情も湧いてきた。住所も氏名も変わっていない。そもそも、別手帳になっていたこと自体がおかしいじゃないか。

 この私の「消えた年金」は、今回の騒ぎが起こらず、見直しがなければ、発見されなかったのだろうか。少なくとも、私自身は気付いていなかった。私の経歴から考えれば、実にシンプルなはずだ。ましてや、転居や転勤・転職を繰り返した人ならば、「消えた年金」が存在する可能性はおおいにあることになるだろう。

 私の場合は、わずか1カ月だけ増えただけだから、いずれ支給される年金額にはそれほど大きな影響はないだろう。私は自らを「年金被害者」とまで言う気はない。「被害」にあっているとまでは言えないだろう。しかし、著者がいうところの年金「被害者」にとっては、極めて大変な難しい問題になっていることは間違いない。

 著者は1962年生まれの弁護士にして、「年金記録問題検証委員会」などを歴任してきた、当事者である。自民党政権時代に政府の要請を受けてその職についたのだが、その経緯について、概略をこの一冊にまとめている。

 選挙に有利と見て記録の修復作業のハードルを上げ続けた民主党と、それに負けじと「最後の一人まで」確認すると公約した政府・与党。この不幸な対立の図式は、「水を汲み直して」被害者を救済するのでなく、記録の修復という「手で水をすくい続ける」作業を優先させてしまった。しかし、少し考えれば誰もが分かるように、水を汲み直しさえすれば、手で水をすくい続ける必要はなくなるのだ。つまり年金記録を修復することができなくても、すべての被害者を救済できれば、この問題は終わる。にもかかわらず、社会保険庁は、ひたすら手で水をすくい続けるかのごとく、年金記録の修復に努めている。p92「覆水盆に返らず」

 つまり、内部を見てきた当事者の一人として、著者は、年金記録問題の完全解決はできないと、完全ギブアップ宣言をしているのである。「年金被害者を救え」とは、きちんと今まで払い続けてきたひとりひとりの年金受給者の「誇り」を回復することを意味するわけではない。かつての集金した年金保険料を使いこんでしまった職員たちなどの罪を問わずに、とにかく、現在の受給者たちに、国が年金を払ってやればいいじゃないか、という論法である。つまり、正直者が馬鹿をみる現状を追認する政策をとれと言っているのだ。

 実際には4年後をめどに、消費税はアップされて、年金システムは大きく変化されるだろう。現実的にはそうならざるを得ないだろうし、国民の大方の賛成を得る方向に持っていくことは可能であろう。しかし、その前に、間違ったことは間違ったと、正確に把握し、謝罪すべきは謝罪すべきだろう。国民は、自らの年金の計算方法さえ知らない。すべてがブラックボックスなのだ。それをつまびらかにしないで、逃げ切りを図ろうとするのはズルい。

 こうした状況を前に、私たち国民は、年金制度のデザインを抜本的に検討しなおす時期に来ている。保険料方式を維持するのか、それとも、税方式にするのか。賦課方式を維持するのか、それとも、積立方式にするのか。今こそ真剣に話し合わなければならない時期に来ているのであり、これこそが本当の年金問題なのだ。p100

 ズルい奴はどこまでもズルいな。ここまで生きてきて、最近とくにこのように感じることが多くなってきた。憎まれっ子世にはばかる、という言葉もあるが、本当に、ズルい奴は、本当にズルい。ズルい奴が、世に、はびこり過ぎている。悪いことをやって、責任を取らない。あとは野となれ山となれ。さっさと逃げ切って、あとは自由自適の生活だ。

 政界を引退したとして、小泉純一郎は、最近は、ウルトラマン・キングのアフレコをやったという。あとは野となれ、山となれ、の典型だ。自分の年金さえ確保できればそれでいい。ズルい奴はどこまでもズルい。「年金被害者を救う」なんて意識はサラサラない。こういう奴に執行猶予の時間を与えていた国民が馬鹿なのである。昔の戦国時代なら打ち首獄門だ。フランス革命時代なら断頭台の露となって消えただろう。いやいや現代でも、地球上のあちらこちらの国々では、引退した前権力者たちは、命さえ保証されていない。

 この本の言っていることは、「年金被害者を救え」ではない。この本の言っていることは、「年金『加害者』を救え」なのだ。アホらしい。

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46)地球人として生きる」カテゴリの記事

コメント

宮崎人さん
年金どころか、アメリカのオバマの三大政策の1つだった、国民皆保険の改革でさえ、容易に進む気配はありません。
日本の年金も、財源を消費税に求める、という現実論に私は賛成です。
そもそも年金は、役人や軍人などの特殊な立場の人々だけのものだった。それを戦後、国民皆年金制度をスタートした時点で、年金の本質的な意味が変わってしまいました。
長期的な変動に耐えうる制度を支えるのは消費税しかないでしょう。
そこに移行できるのか、移行するまでにどのような障害があるのか。そもそも整合性のある着地点はあるのか。悩みはつきません。
個人的には、自営業者なので、私の年金は多くはありませんが、幸い生涯続けられる仕事を持っているので、健康な限りは仕事で生活費を稼ごうと思います。
子ども達もいるので、「世話になりたくない」などといわず、困ったら、大いに子供達の世話を受けるつもりです。

投稿: Bhavesh | 2011/02/04 11:22

 社会保険庁から日本年金機構に変わっても何等変わらない。まさに悪質極まりない。

投稿: 宮崎人 | 2011/02/03 23:11

こちらこそ。
いつもアクセスありがとう。

投稿: Bhavesh | 2009/11/04 22:17

ありがとう☆
亀レス(古語かも)でごめんなさい。

投稿: ペコ | 2009/11/04 19:50

ペコちゃん

 これはすぐに調べるべきですね。自分の履歴をキチンと把握して、社会保険事務所に行くべきです。

 私の場合は、これとは別に、もう一件、二重払いがありました。自分で働いて厚生年金を職場で払っていたのだけれど、実家の親が、国民年金を別口で払っていた時期が判明したのです。

 ダブって払っている分は、保険払込期間に算入されず、過重に払った保険料は30年ぶりに利子も付けられずに戻ってきました(国民年金の部分のほう)。

 2年弱だと、20数カ月。最終的な算定額に大きく響くし、場合によっては、算定期間が微妙な場合は、貴重な20数カ月となるはずです。

 調査を依頼しても、1年以上かかる場合もザラなようですから、いますぐ行って確認しましょう。

投稿: Bhavesh | 2009/10/13 14:49

そうなんですか。。
それならば、わたしが病院で働いていた期間の
年金もあるかも。1985年頃なんですが。
その後、引っ越しを繰り返し、国外にも出ていたし。病院で証明を受ければいいんですかね〜。
3ヶ月でも、ならば、2年弱くらいでも。。

投稿: ペコ | 2009/10/13 12:46

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