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2009/10/02

環東京湾構想 新たな成長と人間本来の生き方のために

環東京湾構想
「環東京湾構想」 新たな成長と人間本来の生き方のために
山崎養世 /竹村真一 2009/09 朝日新聞出版 単行本 241p
Vol.2 No770★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆

 ETC1000円の旅も何回か楽しんだ。高速道路無料化も待ち遠しい。実際に政権が交代して見れば、完全無料化まではさまざまなハードルがあるようだし、国民の半数以上は明確な反対意見を持っているようだ。

 もともとこの高速無料化には根拠がないわけでもなく、この話題が浮上したときには、まさか、と思ったが、自民党政権下においてさえ暫定的とは言え、この大きな「社会実験」が始まったのだから、実現性がないとは言えない。

 先日、例の週刊誌を見ていたら、「高速無料化が日本を変える」の記事があった。そこで熱弁をふるっていたのが、「元祖提唱者」山崎養世。経歴を見ると、エリートなのだか、いかさま師なのか、私には判断できない。とくに、外資系投資会社における活動がどのようなものであったのか、それいかんによっては、当ブログにおける彼の評価は大きく変わる可能性がある。

 さっそく図書館で彼の名前で検索してみると、すでに10冊ほどの著書があった。とくに「日本列島快走論--高速道路を無料にして日本再生へ」は2003/09に日本放送出版協会から発行されている。その他、読めば面白そうな本がいくつかある。その著者の最近刊と言えるのが、この一冊であろう。

 首都圏の問題は、他の地方にとっても他人事ではありません。
 日本の財政構造は法人税にしろ、消費税にしろ、「東京都で稼いだ金を全国に配っている」という形になっています。
p24

 もうすでに話題にさえのぼらなくなってしまったが、首都圏機能移転構想というものがあった。全国各地が立候補し、最終的に3~4の移転候補地へ絞られたはずだった。だが1999年に石原慎太郎が都知事になって、その構想を真っ向から潰してしまった観がある。いやまだあの構想は残っているはずだ。

 この前、ETCの旅で都心も走ったが、なにも、これだけ広い日本の機能を一極に集中する必要はないと思う。「東京都で稼いだ金を全国に配っている」などというが、そのような形に作り上げてしまっただけで、本来、そういう形になるべきものではないのだ。

 この先30年間、少子高齢化が直撃するのは、日本のどこよりもまず首都圏なのです。p18

 なんとも、この辺の論理も、都市圏のエゴが丸見えの一方的なへ理屈のように思える。そのようにしてしまったのは、都市そのものである。ここから、環東京湾構想とやらに展開していくとするなら、なんだか、いよいよ雲行きが怪しくなる。

 私が「環東京湾構想」という言い方にこだわるのは、一つには今のように左右が大きく分かれたままの東京湾岸ではなく、東京湾を取り囲むこの地域全体を一つの「環」として考える発想が必要だと思うからです。頭の中でそうイメージするだけでなく、実際に環東京湾全体を一つの環の構想としていくべきなのです。p128

 いくら環東京湾構想を打ち上げたとしても、その環東京湾が自給自足で自立できるわけではない。それを支える、あるいは支えさせられる地域があればこそ成り立つ構想になっている。地域エゴまるみえだ。

 環東京湾だけでなく、あるいは日本だけでなく、アジア、北半球、地球全体と視野を広げていった時、物理的な一つの限界性、あるいは絶対性としての「地球」を大きく念頭に入れていかないと、これからのグランドデザインにはならないのではないか。

 日本がつぶれる、東京が壊れる、アジアの中で埋没する・・。そんなたわごとは、ある意味、本気で組みすべきテーマではない。地球全体、人類全体が、一つの限界性、絶対性の壁にぶつかっているとき、小さなエゴは、さまざまな理論とともに噴出してくるが、本当はそんなのはどうでもいいのだ。

 これからの地球全体のことを考えれば、1000万人を超えるような大都市は必要ない。それを再整備するような大プロジェクトを考えるより、はやく「廃都」にしたほうがいいのではないか。そして、「首都圏移転」をきっかけとして、都市機能を分散させるほうがいい。

 個人的に言えば、東京のような大都市に生活することは、私向きではない。いや数百万の都市でさえ、少し大きすぎると思う。本当に「人間本来の生き方のため」であるなら、せいぜい3~40万規模の人口を抱える都市構想がリミットではないのか。この本が「新たな成長と人間本来の生き方のために」と唄うなら、その時の「人間」とは何かを問うてみたい。

 本日、2016年のオリンピックをどの都市で開催するかが決定するはずだ。東京も候補しているが、当ブログは、これをいいわけにして、矛盾の噴き出している東京に再投資することは反対だ。鳩山新首相だって、ついこの間まで、東京開催に懐疑的だったはずだ。リオでも、シカゴでも、どこかに譲ってしまったほうが、さっぱりする。

 コンクリートから人へ、というスローガンで、八ッ場ダムの建設を中止するなら、東京をこそ、コンクリート地獄から救うべきだ。そして、一極集中という過度な役割から解放し、もうすこし楽なエリアに作り替えるべきだ。そもそも、八ッ場ダム構想だって、都市圏への治水と水資源の提供というプランのもとに犠牲になったとさえ言える。

 Osho追っかけを主テーマにしている当ブログなら、ここでOshoのコミューンについてのインスピレーションを思い出す。

 コミューンについての私のヴィジョンは、国家は消え失せ、大都市は消え失せるというものだ。なぜなら大都市は、あらゆる人間に対して十分な空間を許さないからだ。そしてすべての人間は、ほかの動物たちとまさに同じく、どうしても一定の領域を必要とするような心理的要請をもっている。大都市では、人間はたえず人混みのなかを動いている。それが大いなる不安、緊張、苦悶を生み出し、いかなるときにも人がくつろぐことを許さない。いついかなるときにも自分自身であること、独りであることを許さない。生命の源泉である樹々とともにいることを、生命の源泉である海とともにいることを許さない。

 新しい世界についての、コミューンの世界についての私のヴィジョンは、国家もなく、大都市もなく、家族もなく、地球上のあらゆる所、深い森のなか、青々と茂る森のなか、山のなか、島のなかに拡がり点在する無数の小さなコミューンの世界だ。運営可能な最も小さなコミューンとしては、すでに私たちがすでに試みたことだが、5000人のコミューンが可能だ。そして最も大きなもので5万人のコミューンが可能だ。5000人から5万人のあいだだ。それ以上になれば運営不可能になるだろう。そうすれば、ふたたび法と秩序の問題が持ち上がり、警察と法廷と、すべての旧来の犯罪者たちが呼び戻されなければならなくなる。Osho「新人類」p70「コミューン主義」より

 本書の後半において著者山崎養世や対談者の武村真一は、なかなかシオらしいことを言い始める。

 小学校には昔から運動会など、子供を中心としたいろいろなイベントがあって、地域の人たちが集まっていますね。PTAにしても、子供たちのイベントだけをやるのではなくて、その地域の大人が集まって行う、いろいろな活動の中心になってもいいのではないか。p158

 そう思うなら、人に勧める前に、それを実践してみたらいかがだろうか。私は自分なりに、子供たちの成長とともに、町内会活動に参加し、父親の会を立ち上げ、PTA役員として10年以上も参加してきた立場から考えると、後半の著者たちの構想が、なぜ前半の、超モンスター・コンクリート都市構想に連なっているのか不思議でならない。

 日本政府は明治維新のときに、全国で小学校と郵便局と交番を造ったんですね。
 このときの小学校間の距離は、歩いて通える距離ということで、そこに通う子供たちが平均で1.2キロ歩けばいいように計画されたのです。
 街づくりでもこの小学校の校区をベースに、そこに住む人たちが話し合いで地域のことを決めていく仕組みを作ったらどうか。そう考えて、その小さな単位に「グリッドコミュニティー」と名前をつけました。
p158

 よく言うよ、という感じがする。1.2キロどころか、1.2メートル隣の住人がどのような人間なのか分からないような人間が暮らしているのが東京を初めとする日本の現状なのである。理想は理想として、絵に描いたような話をしても意味はない。大体において、明治維新においては、国家、国民と言う概念はあったとしても、具体的な地球、地球人、という感覚はなかった。だから、この100年間は、その構想がベースとなって機能してきた。

 しかし、すでにそれは破綻している。いくら山崎養世が、忘れたころに故郷を思い出すようなことを言ったとしても、一体、誰がその故郷を守っているというのか。若いものはみんな都市圏に就職し、ダムや要らない高速道路の公共事業を待っている地元の工事業者だけが残されていたのでは、シャッター商店街だけが無残な姿をさらけ出し、山崎が言うところのコミュニティーなど、夢のまた夢となりはててしまっているのだ。

 グランドプランを描き直そうというは賛成だ。しかし、そこには地球人という概念が必要だし、人間としてスピリチュアリティを持って暮らしていくという大前提を忘れてはいけない。著者たちの意欲はわかるが、どうも眉唾である。高速道路無料化問題はともかくとして、この人物については、もうすこし見定めないといけない。 

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