オバマ大統領がヒロシマに献花する日<1>
「オバマ大統領がヒロシマに献花する日」 相互献花外交が歴史和解の道をひらく<1>
松尾文夫 2009/08 小学館 新書 220p
Vol.2 No791 ★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
高校を卒業したばかりの時、ヒロシマに行ったことがある。バックパッキングのヒッチハイク日本一周旅行の途中に寄ったのだった。小さなテントを平和公園の中に張り、数日過ごした。もう37年前のことだ。思えば、それは1972年、終戦後27年目のことだった。
あの時でさえ、すでに私たち若い世代は「戦争を知らない子どもたち」を自称していた。それのに、あれからさらにダブルスコア以上の日時が過ぎても、ヒロシマの惨禍は消えずに残っている。
私の住んでいる、自分が生まれ育った町の名前がカタカナ書きになって世界に有名になることはない。だが、この町にもたくさんの戦争の悲話がうず高く積まれている。決して大きな話題になることはないが、それでもいまだに体験者たちは、鮮明に当時の話を苦悩を込めて語る。地球上の最も悲劇的な出来事でもあったヒロシマで、何が起こったのか、正直言って、私には想像さえできない。
あの旅で、ナガサキにもオキナワにも行った。あの時の18才の少年として見た体験は、一訪問者としての小さな体験ではあったが、いまだに記憶に鮮明にある。何事が起きたのか。確かに、その事が起きた時、そこに私はいなかった。確かにそれは私が生まれる前のことで、一人の人間として、何事もし得ないような、虚無感を持つしかなかった。
2009年秋以降にも実現する可能性があるオバマ大統領の初めての日本訪問の際に、あるいは日本政府が主催を提案している2010年以降の軍縮会議に参加する際などに、広島訪問、献花が実現するのではとの期待が一気に高まっている。内外の識者の間にも支持の声がひろがり、「世界の核軍縮促進のために強力で象徴的な行為だ。広島、長崎訪問をオバマ大統領に促す書簡を送るし、すでにアメリカ政府には伝えてある」(ロルフ・イケウス・ストックホルム国際平和研究所会長、2009年5月2日付「毎日新聞」)といった具体的な発言も出はじめた。p25
「オバマ大統領がヒロシマに献花する日」。なんという詩的なひびきだろうか。実現すれば、まさにオバマ大統領に贈られた2009年ノーベル平和賞にまさにふさわしいシンボリックなイベントになるだろう。しかし、物事は必ずしも、メルヘンティックなハッピーエンドで終わると限らない。
同時に、日本側は、このアメリカ大統領の「広島の花束」に対応して、首相が「真珠湾の花束」でこたえねばならない、というのが私の提案である。場所は、アメリカ人にとって、あの戦争のシンボルとしての彼らの記憶から消え去ることのない真珠湾攻撃の現場、今もアメリカ兵1177人の遺骨が眠り、油が浮き出す戦艦アリゾナ残骸上に建つアリゾナ記念館しかない。p9
被害者意識としての日本にしてみれば、アメリカ大統領が広島に献花するということは、ぜひしていただきたいことだ。しかし、加害者意識として、真珠湾のアリゾナ記念館を思い出す日本人はどのくらいいるだろうか。
「戦争を知らない」戦後生まれの私たちでさえ、太平洋戦争のことなどよく分からなくなっている。私たちよりさらに若い年下のオバマ大統領に、個人としてのどのような責任があるというのだろうか。
真珠湾には行ったことないけれど、グアムに行ったときに、戦争の痕跡を見せられたことがある。あれから64年も過ぎて、なお、人類は、その惨状を理解できず、ぬぐいきれない暗い記憶にかきむしられている。
著者は1933年生まれで現在76歳。
太平洋戦争の敗戦から60年の夏を迎えた2005年8月、私は、あの戦争の悲惨さと愚かさを経験した最後の世代の一人としての思いを込めて、日本とアメリカの世論に対し、日本語と英語の両方で一つの提案をした。p8
オバマはアメリカ大統領としてヒロシマに行くのではないだろうか。鳩山は日本の首相として初めて真珠湾を訪れ献花するのではないだろうか。そうあってほしい。すでに消えつつある前世代の犯した過ちであったとしても、同じ地球に生きる人間同士として、それは美しい光景のように思う。
だが、それは単にセレモニーになってしまうだけなら、偽善の上塗りになってしまうだろう。それは未来に向かっての重い決断と、新しい時代への宣言にならなければならない。
著者は、本書において、たくさんの戦争について語る。そして献花しあう必要があるのは、必ずしも日米間だけでないという。中国や韓国、北朝鮮、その他、周囲の国々との相互の献花が必要だと語る。
「相互献花外交が歴史和解の道をひらく」
この提案を重く受け止める必要がある。
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