小さな生きものたちの不思議なくらし
「小さな生きものたちの不思議なくらし」
甲斐信枝 (著) 2009/9 福音館書店 A5単行本: 160p
Vol.2 No803★★★☆☆ ★★★★★ ★★★★☆
「『自然との共生』というウソ」や「昆虫にとってコンビニとは何か?」の科学者としての高橋敬一の視線に比較すれば、同じ身近な自然の小さな生き物たちへ向ける喜寿を超えられた絵本作家のまなざしは、また違った趣きがある。
私は幼いお子さんに、動物と植物の生態の違いの大本を、知識の力を借りずにやさしくお伝えしたいと願って、この絵本を作りました。p125
この「知識の力を借りずに」というところに心打たれる。各章に挟まれるごく自然な身近な風景は、ともすればデジカメ画像で済ませてしまいそうだが、実はよくよく書き込まれている。もし目の前の風景をこれほどこまかく書きとるとしたら、どれほどの時間、その風景の前に立ち続ける必要があるだろう。
ましてや、一瞬で過ぎ去る蝶や虫たちが、ずっとそこにとどまっているわけではない。デリケートな観察力とイメージ力が問われる。それでもなお、一枚の絵としてひとつの風景を成り立たせているのは、この絵本作家のトータル力のなせる技だろう。
こうしてミノガはメスを求めて交尾をくりかえし、短い一生を終えるのだそうです。しかし、メスの痛ましい最後に比べればまだしもというべきでしょうか。成虫になっても観のの外に出ることなく交尾を終ったメスは、まもなく蛹(さなぎ)の殻と自分のからだの狭いすきまに卵を産みはじめます。三千くらいもの卵でからだじゅうを埋めつくされているメスは、卵をうみだすたびに少しづつ萎んでいき、産み終えるころにはすっかり萎(しな)びて小さくなってしまいます。それでもすぐには死なず、数日たってなお生きて動いているのを見るのは、世にも痛ましい限りです。p90
老絵本作家は、顕微鏡も望遠鏡も使わず、採集も解剖もしないが、目の前の自然をこまかく丁寧に、それこそまるでハイビジョンカメラで見つめているかのようだ。
草や虫たちの季節になると、私は、虫や野の草を観察したり写生したりするために、しばしば洛外の田園を歩きます。春を無邪気に謳歌する陽気なタンポポに比べ、立ち姿のどこやらに哀愁を含むノゲシに出会うと、ふと、動くことのできない草の哀しみを思うのです。「草も私たちと同じ生きもの同士、動くことのできない身の上を、ある日ひそかに託(かこ)ちもしようか」。そして今更、動物と植物の生態の違いのさまざまに思いを至し、創造の巧みに感動するのです。p125
この本は著者の長い活躍の40年にわたる間に書かれた文と絵がまとめられている。著書も30冊以上に及ぶ。こちらの本からは、ファーブルではなく、どことなくホイットマンに通じる何かがあるように思った。
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