森の診療所の終の医療
「森の診療所の終の医療」
増田 進 (著) 2009/9 講談社 単行本 222p
Vol.2 No805★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
「森」繋がりで、ここまでやってきた。図書館の新刊本コーナーに並んでいる何冊もの本の中に、いくつか「森」をテーマにしたものがあったから、ついでというと失礼だが、一緒に借りてきた一冊である。この本のタイトルだけを読めば、最初は人里離れた森の中にあるホスピスの話かな、と思っていた。
しかし、これは例の全国に知れわたった岩手県・沢内村の医療体制を長年に渡って支えてきた地域医療の先駆者・増田進医師の、自叙伝にも近い医療の現場からのレポートであった。この数年開いているペンションを借用した「緑陰診療所」は確かに森のなかにあるようだが、長年にわたって勤務した沢内村や田老町は、他に医療機関がない、というような無医地域だった。
「終(つい)の医療」というタイトルからすると、ホスピスとして活動しているのだろうか、と思ったが、決してそうではない。自らの医療者としてついに辿りついた医療、という意味でもあろうし、出世や金もうけや保険や制度、法律などに縛られた医療ではなく、真正面から人間に向かう究極の医療、という意味合いが込められているのだろう。
その増田医師が辿りついたのは鍼治療を中心とした自由診療の小さなオアシスともいうべき医療センターであった。もともと外科が専門だった彼にしてみれば、鍼治療へと繋がっていったのも不思議ではないが、体を治すだけではなく、人間と向き合う、といういみでは、やはりこの人には、西洋医学より、東洋医学のほうが似合っていると、あとから思った。
沢内村に赴任して、最後の仕事が死亡診断書を書くことだったというから、必ずしもホスピスにつながらないわけではない。もともと沢内村には医者はおらず、村人が死亡すると、死人を背負って、遠くの医者のところまで行って死亡診断書を書いてもらっていたという。村役場の要請も、まずはそのような不便からの解放であったようだ。
その出会いのなかから増田医師の人生がつづくわけだが、そもそも、この方は、いわゆる「医師」ではないのかもしれない。なにか他の存在が、とりあえず「医師」という職業・立場を取って、生きている、という感じがする。それでは、その、他の存在、とはどんな存在なのだろう。それは人を愛し、愛されることを知っている人、ということになろうか。そして、真実であろうとする。医療界の現場にあって、医療の不正を鋭くレポートする。
実際に会ってみると、意外と気楽な男だと感じるに違いない。私は、十字架を背負ったキリストでもなければ、理想に燃えたヒューマニストでもない。ただ、こういう医療をやっていて楽しい。
私は、田舎でやっている医療こそ医者らしい医療で、楽しいということを、ほかの医者や医学生にわかってもらいたい。田舎の医療は誰でもできることだし、力む必要は何もないのだ。p183
その道をしっかりと歩んできた人だけが言える言葉であろう。
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