<改革>の技術 鳥取県知事・片山善博の挑戦
「<改革>の技術 鳥取県知事・片山善博の挑戦」
田中成之 2004/11月 岩波書店 単行本 269p
Vol.2 No776★★★★☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
民主党新政権のムダ削減のさらなるチェックをする行政刷新会議のメンバーの一人に選ばれた片山善博とは、どういう人物なのか。八ッ場ダム計画中止問題に絡んで、すでに県知事として鳥取中部ダムを中止したことで知られるこの人が、最近よく引き合いに出される。
「中部ダム中止がローカルニュースで済んで非常に助かった。あの時東京のテレビ局が来て『環境保護かダム推進か』となっていたら大混乱したと思う。改革は黙って小さくはじめて、そこから波及させた方が良い。大風呂敷を広げれば衝撃的効果はあるが、無用な混乱を生む」
「(過激な言動で)クローズアップされるほど無用のあつれきや戦いが増える。クローズアップしても変革の成果が小さい、というよりは、気がついたら『こんなことができていたのか』という方に私は関心がある。時代の変わり目では、変革に賛成の人もいるし、反対の人もいる。変革に従うけど無念を残すケースもある。そういう方々も考慮しなければいけない。あまり大げさに勝った負けたと勝負みたいにしない方が、実質的な変革ができるし、しこりも少なくできると思う」p103
実際に、自分のエリアのこともよく分かっていないのに、他県のことまでなかなか関心が及ばないものだが、<技術>にもいろいろあるものである。2016年の東京オリンピック招致に失敗した石原慎太郎が、かつて東京都のホテル税に絡んでの片山の発言に対してののしった言葉が有名だ。
「ナンセンスだね。夢でも見てるんじゃないか。あれ、もとは自治省の役人だろ? 担当省庁(旧自治省のこと)が自治体(東京都のこと)が勝手なことをして嫌なのよ。ことの何たるかも理解せずにね、誰にどんな知恵をつけられたか知らないけれどね、恥をかくのはテメエの方だ」片山に対する石原の言p250
このような発言を繰り返す知事を選出した東京都民1300万人の良識を疑うが、新銀行東京の致命的な大失敗を隠ぺいするために画策した2016年オリンピックの招致にも、都民国民の不支持をよそに推進して失敗したのも、当然のことと言えよう。ましてや、問題発言を繰り返して、オリンピック開催地に選ばれたブラジル・リオデジャネイロからの大ブーイングで、国際問題を起こし始めている。
脱ダム、ダムはムダ、の田中康夫・元長野県知事のパフォーマンス重視の県政もはていかがなものか、と思われる。大阪の橋本知事や、宮崎の東国原知事などの<改革>も、マスメディアを活用して、大ナタを振るっているように見えるが、はて、その成果はいかがなものか、まだ結論はでていない。
それに比したら、国内でも最小県に属する鳥取県知事としての片山の活躍は、それほど大きくマスメディアに取り上げられることはなかったが、たしかに「気がついたら『こんなことができていたのか』」というような改革だ。元防衛庁長官であり、父に元鳥取県知事を持つ石破茂に請われて、鳥取県知事になった片山は、必ずしも民主党を以前より押してきたわけではない。むしろ、東大→自治省→県知事、という、旧態依然としたコースを歩んだ陳腐なケースと思われがちだ。
この本は、若い新聞記者が鳥取県に配属になり、身近なところで見ていた知事としての片山の活動を知事二期目の中ごろにまとめたもので2004年にでている。だから、その後のことについては、他書によらなければならないが、なるほど、と思わされるところが多くある。
発言の仕方にも注意が必要だ。「改革か、しからずんば死か」と言わんばかりの感情的レトリックに満ちた発言をすれば、過大な反発を招き苦労することになる。実際、片山知事の発言は、西尾前知事の方針への「疑念」や「違和感」の表明ではあっても、ストレートな「批判」にはあまり発展しなかった。西尾前知事の”負の遺産”を相続放棄するまでの2年間、片山知事は、声高に「改革」を叫ぶことはせず、従来の方針の「見直し」を叫び掛け続けた。 p21
本年度補正予算の中から2兆5千億を超える執行停止する「ムダ」をほじくり出した民主党の「技術」を踏まえ、さらに「過大な反発を招き苦労することに」ならないようにするには、どうしたらよいのか。あらたに行政刷新会議のメンバーとなった片山の「技術」に期待がよせられる。
| 固定リンク
「46)地球人として生きる」カテゴリの記事
- Haruki Murakami What I Talk About When I Talk About Running(2010.02.11)
- 村上春樹スタディーズ(2005ー2007)(2010.02.10)
- 村上春樹を読むヒント(2010.02.10)
- 1Q84スタディーズ(book2)(2010.02.10)
- 村上春樹「1Q84」の世界を深読みする本(2010.02.10)
コメント