クラウドコンピューティング 技術動向と企業戦略
「クラウドコンピューティング」 技術動向と企業戦略
森洋一 2009/05 オーム社 単行本 238p
Vol.2 No771★★★★★ ★★★★☆ ★★★☆☆
自分が関わる企業の社内パソコンが2011年度上半期までに、すべてハードディスク非装備のパソコンになるという。その導入端末の数、約3万台。もっとも重要なことは情報保護という観点からだが、思えば、一時期から考えると隔世の観がある。
機械化が叫ばれてからも、一番遅れていたOAと言われる分野でも、依然として、紙と電卓の作業が延々とつづく業態だった。複雑な計算数理が延々と続き、そこに法制度が複雑に絡みこむ。情報量も多く、その保管も極めて重要だった。
しかし、1990年代以降、他の分野と同じように、ITとインターネットの荒波に洗いあげられた。パソコンが苦手だなんて言ってはいられない。いまやパソコンが使えなければ、何もできない。さらに、パソコンとインターネットがあることを前提として、商品内容と法制度がさらに複雑化した。
業務をパソコンに置き変えるなどという時代は当の昔の話で、パソコンやインターネットからスケジューリングされた業務を淡々とそつなくこなし続ける日常に変貌してしまっている。もともとIT推進は大歓迎であった私には、理にかなった実態に見えてはいたが、ここに来て、はて、これでいいのかな、という疑問を持ち始めた。
弊社のパソコンもその業務の50%以上はオンラインで、企業のホストコンピューターにつないで使っているが、ものによってはオフライン・ソフトを使い、客先との連絡も、まだまだ紙や電話ファックスが主流を占めている。ここに来て、客先との面談の必要性が強調されるような揺り戻し現象も起きている。
しかし、時代はさらにクラウド化していくことは間違いない。クラウド化すること自体に夢がないわけではない。最近もネットブック探しをしていて、ああ、時代はここまで来ているか、とその変遷を実感した。まだまだ接続料金がこなれていないが、仕事のことだけ考えれば、それはそれでいいのではないか、と思う。
10インチ程度のディスプレーを持つフルキーボードでハードディスクがついていない2~3万円のネットブックを一台鞄に忍ばせておけば、ほとんど仕事ができてしまう。できれば、バッテリーもカタログ上だけではなく、実質10時間くらい持続してくれるなら、もう問題ない。
モバイル接続料金も、24時間フルタイムで使って一カ月2000円程度なら許せる。接続エリアもドコモケータイエリアぐらいには拡大して欲しい。いや、このような環境はまもなく数年以内にできてしまう可能性がある。いや出来るだろう。できないはずはない。
でもふと考える。小学生の時に、学校の近くで買った800円くらいのゲルマラジオがもたらしてくれた不思議な面白さ。乾電池もなければ、スピーカーもなかった。一つのコンデンサにイヤホンがついただけのもの。選局のための簡単な変換機がついていて、アンテナは、部屋に巡らした一本のエナメル線。あの、お手軽な手作り感覚。裸電球の下でワクワクしながら聞いたあの流行歌。
あるいは、パソコンの黎明期。いや、日本じゃマイコンと呼ばれていた。私はマイコン・キットも買えなかったし、自作パソコンにも挑戦したことはないが、いっぱしのパソコン・オタクではありつづけてきた。オークションで落札した型落ちノートを何台も、分解しては再構成するということが、一種の日常的なシュミ化している。バラしては組み立てる、の繰り返し。
業務がクラウド化して、コンパクトなルーティン・ワークになっていくことに別段に声を荒げて反対する気はない。それはそれとして、必然性がある。仕事自体は決して楽にはならないが、技術の進化によって、どこまで変貌していけるのかを見たい気もする。しかし、ハードも、そしてソフトも、はるかかなたに遠ざかってしまう悲しさが湧いてくる。
時代が動いているのがわかる。
今日のクラウドコンピューティングは、アマゾンやグーグル、そして新興企業たちが引っ張ってきた。
かれらは、これまでコンピュータ産業のメインストリームにいなかった人たちだ。
この動きと呼応しているのは、世界中のデベロッパー、重宝がられているのはオープンソースである。 p204
クラウドは時代の必然性であったとして、クラウドをはるか遠くに見つめるだけに取り残される側と、そのクラウドの中に入っていって、クラウド推進する技術者たちがいる。たんにハード技術やソフト技術だけではなく、利用技術が問われている。その流れを知るにはこの本は分かりやすい。
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