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2009/10/23

新・平和学の現在

新・平和学の現在
「新・平和学の現在」
岡本三夫 /横山正樹・編 他6人共著 2009/09 法律文化社 単行本 264p
Vol.2 No793 ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

 寡聞にして「平和学」というものが存在していることを知らなかった。なんだか「平和」と「学」がぴったりマッチしているとは言い難い感じがした。「サザエさん学会」とか、「と学会」とか自称するものがたくさんあるから、なんでもかんでも、語尾にシャレで「学」をつければ、それなりに、知の遊びができるのかもしれない。

 でも、はて、平和・学、とは、ちょっとシャレで自称することは通常ならはばかれるのではないか。そう思ってページをめくり始めたのだが、これが実に大真面目な本で、すでに数十年の歴史があり、実際に大学などで教えられている立派な学問であった。

 平和の実現には平和の種が蒔かれ、育成されねばならないが、そのためには平和研究の充実が重要である。平和研究が解決をめざしているこれらの課題を研究と教育の視点からカリキュラム化したものが平和学(Peace Studies)であり、欧米では小学校レベルから大学レベルまで広く見られる現象である。p5「平和研究のカリキュラム化」

 本来、教育とは押し付けられるものではなく、引き出されるものであると思うが、未来において、地球人がもし義務教育のカリキュラムを組むとしたなら、この平和学こそ、ぜひとも採用されなければならないだろう。

 不可解なのは、どういうわけか、日本の大学には平和学部や平和学科がいまだに生まれていないことである。英国、米国、カナダ、ドイツ、オランダや、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド等スカンディナビア諸国の大学には平和学部や平和学科があり、平和学を専攻して、平和学の分野で学士・修士・博士の学位を取得することができる。卒業生たちは広く政治、経済、外交、教育などの分野においてはもとより、ユネスコなどのさまざまな国連機関、テレビ、ラジオ、新聞などのマスコミ分野、NGO関係の諸分野で働いており、他分野の卒業生と互角の、あるいは彼女ら・彼ら以上の、社会的貢献をしている。p21「平和学部創設の必要性」

 この本はタイトルに「新」とうたっているところからわかるように、旧版は1999年に出版されている。今年の9月に大幅に改訂されたものであり、また2005年には姉妹編の「平和学のアジェンダ」が出版されている。機会があったら、そちらにもあたってみたい。

 従来の理解では、平和とは単に戦争・紛争のない状態のことだった。それに対してガルトゥングは、平和を暴力の不在とおき、次のように論じた。
 人間あるいは人間集団の、身体的、あるいは精神的な自己実現の現状が、その人たちの潜在的な実現可能性以下に抑えられるような影響を受けているならば、そこには暴力が存在する。暴力とは、実現するはずのものと実現したもの、あるいは達成されるべき状態と現実の差異の原因と定義される。暴力とは実現可能性と現実との差を拡大し、また、この差異の縮小を妨げるように作用する。
p45「暴力の不在としての平和」

 この本は、平和学の「現在」がまとめられているのであり、平和学そのもののカリキュラムではない。だから実際の学問としての内容はわからない部分も多いが、大いに刮目すべき点が多く語られている。こういう学問があったことを知って多いに感動した。当ブログが例年やっている年半期ごとの「新刊ベスト10」というシリーズがあるが、、この本は、今年後半のベスト本の一冊として記録しておきたい。

 「・・・ジェンダー、フェミニズム、エコロジーの観点から『核文明社会』を批判し、『核のない世界』と『共生』への道筋を見いだすことが21世紀の平和学の課題であるといっても過言ではない」と臼井久和は『平和学』という編著書の終章でいっているが、平和学が、臼井論文にあるキーワードを共有しつつ、いわば「制度疲労」状態にある現代社会へのオルタナティブを追求しつつあることは確かである。p259「おわりに---『ソフトパワー』の時代がやってくる」

 平和学はかなり学際的であり、網羅的であり、実際的である。しかし、逆に非実用的なもの、たとえば脳科学的な抽象概念などを注意深く排除してしまっている感じもしないわけではない。当ブログとしては、これら二つの視点の融合の可能性を考えながらも、今後もこれらのテーマに関心を寄せ続けようと思う。

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