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2009/11/13

オバマ外交で沈没する日本

オバマ外交で沈没する日本
「オバマ外交で沈没する日本」
日高義樹 2009/06 徳間書店 単行本 246p
Vol.2 No825 ★★☆☆☆ ★★☆☆☆ ★☆☆☆☆

 アメリカのオバマ大統領が、アジアの国として初めて日本を訪問し、友好ムードが漂うなか、なにもこのようなタイトルの本を読まなくてもいいのに、とも思うが、巡り合わせはそうなってしまった。これも何かの因縁か。著者は1935年生まれの、元NHKニューヨーク・ワシントン支局長。現在はハドソン研究所主席研究員。出版社も、なるほど、トンデモ本で名高い徳間書店か。

 私はこの仕事をはじめて50年になる。そのほとんどを日本の国営放送ともいうべき日本放送協会NHKに属して、国際関係のニュース報道と番組制作の仕事にたずさわってきた。最後はアメリカを中心にNHKの国際的なニュースの半分を、日本からアメリカにかけて監督をする仕事をした。P215

 この人物が一般的にどのように評価されているか知らないが、アメリカの支局長として、「みなさまのNHK」のレポーターとして、テレビ画面に出てくるとき、私はいつも違和感を持ってみていた。なんだか強面の笑顔のない顔が、あまりにもNHKに似つかわしくなかった。それに、レポートの内容が、いつも偏った強権的な発言に彩られていたようなイメージがある。

 私の所属するハドソン研究所など保守的なシンクタンクが「イラクの占領をつづけるべきでない」と提案したのは、こうした問題を考えたからである。p148

 自ら、NHK退職後の現在の所属先であるハドソン研究所を「保守的」と明言してはばからないのだから、この人物を、保守的な研究者、と表現していいのだろう。

 オバマ大統領自身、進歩的であり、日本を保守勢力とみているので、基本的に好きではない。アメリカでは進歩勢力の民主党の大統領であること自体が、日本に対する批判と冷たさにつながってくる。p81

 これらの文脈から、保守的VS進歩的、という図式が成り立つとすれば、保守的である著者=日高義樹は、基本的に進歩的=オバマ大統領が好きでないのであり、オバマが嫌っている保守的日本=自民党に肩入れしているということになる。

 この本は今年の6月に出版されている。大下 英治の「民主党政権」などを読んでみると、8月30日の総選挙前でありながら、すでに「政権交代」は既成事実であるかのように語られている。日高はアメリカにおいて、日本の政治の変動を感じられないところに行ってしまっていたのだろうか。

 日本の平和憲法はアメリカの軍事力によって守られている。だがオバマ大統領の新しい国際政策のもとで、平和憲法がこれまでのようには作動しなくなってくる。オバマ大統領が、「アメリカは強くなくてもよい。国際社会に責任を持ちたくない」と考えているアメリカ国民に支持されているからである。p221

 日本の政治が民主党政権に変わった今、民主党が進歩的と言えるかどうかはともかくとして、これらの文脈を裏の裏から読み直してみる必要がでてくる。あらゆる外交的マヌーバーの跋扈する国際政治の場であったとしても、日米関係は対等である、という認識はとりあえず交わされた。だが、オキナワの普天間基地問題を見るまでもなく、その対等という意味にも、複雑なものがある。

 この本、地政学的というか、軍事的というか、戦争や軍備の話が集中して語られる。さらには、商売柄か、センセーショナルな悪意に満ちた文言があちこちに散見される。

 オバマは北朝鮮と正式国交を樹立する p12

 オバマは日本防衛に関心がない p48

 オバマの中国戦略は失敗する p86

 オバマは中東から追い出される p128

 オバマに世界戦略がない p170

 日本はどうする? p208

 当ブログなどからすれば、アナクロともファナテッィクともとれる表現がつづく。

 オバマ大統領の登場で日本は荒波の中にほうり出されることになるだろう。だが日本人にとっては、真剣に国家を考える絶好の機会である。私はアメリカ人の友人が言ったのとは違う意味で、日本人は賢いと思っている。国家をみずからの手で守るのは独立国として当然であると、はっきり理解すれば、そのために努力する政治家を持とうとするに違いない。さもなければ、日本は沈没してしまう。p246

 杞憂は杞憂として受け止めるとしても、ちょっと大げさな表現は、元NHKを看板にするジャーナリストの表現としては、決して上品とは言えない。

 カーター大統領はノーベル平和賞をもらったとき心から喜んだが、ノーベル平和賞が戦いの最高司令官としての大統領にはふさわしくない賞だと批判的なアメリカ人は大勢いた。p179

 カーター元大統領についての是非はともかくとして、著者がこの本を出したあとに、新オバマ大統領もノーベル平和賞を受賞した。理想主義をまるで小児病的なものとして冷笑する立場があることを知りつつも、なお、「戦いの最高司令官」にふさわしくない「アメリカ大統領」こそ、本来あるべきアメリカ大統領なのではないか、と思う。

 著者とて、すべて未来が見通せているわけではない。むしろ、スタートしたばかりのオバマ政権や、まだ「政権交代」していなかった民主党日本などについての考察が、この本の中で十分に考察できているとは思えない。

 問題は指導者である。世界の現状をよく知り、日本が独自の抑止力を持って国家の安泰をはからねばならないことを理解してしている指導者を持たねばならない。p243

 なにはともあれ、新しい時代が始まっている予感がする。今夜のマスメディアはオバマ=鳩山会談のニュースで持ちきりだ。

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コメント

sopan
つまるところ「オバマ登場で沈没した自民党」ということになるでしょうか。
オバマの登場に対応できなかった自民党は構造的に硬直して老化が限界にきていたと。
その意味では、アメリカはオバマに若返ることで起死回生を図り、はからずも、日本も「政権交代」することによって、若返りという意味では、協調姿勢を保つことができる、ということになるのかも。
政権交代の度に、前政権の首謀者の追放や殺害が起こる他国に比べれば、まだ日本やアメリカの前政権に対する追求は優しい。とは言うものの、やはり、ここに来て小泉政治の総点検が必要となります。
そして、自民党=日本、とは何だったのか。

投稿: Bhavesh | 2009/11/14 20:33

もうひとつ裏返せば、
この日高義樹にきわめて近い考え方を持ちながら、
国民にはオブラートにくるんだような説明をする、
自民党政治家が少なからずいるということでしょうね。

改めて思い出しましたが、
小泉の「痛みを伴う改革」ってのが、
戦時中の「欲しがりません勝つまでは」等々の
スローガンとなんとよく似ていることか、
と思わずにはいられません。
日本人の多くはそういうのに弱いんですよね。
「私、ゴールドには弱いんです」みたいに?

投稿: | 2009/11/14 09:19

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