仮想世界ロードマップ 次世代Webへの対応が企業の明暗を分ける
「仮想世界ロードマップ」 次世代Webへの対応が企業の明暗を分ける
野村総合研究所 2009/02 東洋経済新報社 単行本 215p
Vol.2 No836★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆
セカンドライフに代表される仮想社会はこのまま衰退するのか? p1「まえがき」
この本、ここから始まる。ああ、やっぱりな。セカンドライフ(SL)は衰退しているのだ。当ブログでもSL本は、2007年6月の「ウェブ仮想社会『セカンドライフ』」 以来、約40冊ほど読んできた。「セカンドライフマガジン」も2007年12月に創刊以来、2008年3月の2号、2008年8月の3号以来、途絶えている。ムック形式だから「廃刊」という公表はないが、多分、今後の続刊も難しかろうと思われる。
ティム・ゲストの「セカンドライフを読む。」など関連本も興味深く読んだ。SLをやりたくて、古くなっていたパソコンを買い換えたし、実際にSLにも参加してみた。その間多分、一年ほど、次第次第にネタ切れになり、SLに行かなくなってから一年ほど経過してしまった。あの世界はどうなっているのか、気にはなっていたのだが、「衰退」という文字がでて、ああ、やっぱりな、と思う。しかし・・・
その答えはNOである。仮想世界は今後、現実の経済活動にも多大な影響を与えながら、ますます発展していくはずだ。p1
と、上の疑問に対する答えは、このようになる。もっとも、この本、東洋経済新報社から野村総合研究所技術調査部が出している本で、株屋の予想と同じで、もったいぶった権威をバックにちらつかせながら、自分の身の保存を大きく込めて「こうあって欲しい」 世界を「予想」したりするので、鵜呑みにはできない。
この本編集は2008年11月に完了しており、出版されたのは2009年2月である。しかも執筆陣は6人の研究員たちが名前を並べている。本としては、いまいち訴求力のないものである。巻末に付録としてついているアンケート結果などは、実は2007年9月に行われたものが使われており、いまいちデータが古い。
だから、SLや仮想社会についての、もっと最新の研究やデータをもとにしなければ、ここで議論してもいまいちリアリティに欠けてしまう。だが、すくなくとも、「衰退」しつつある日本のSLを含む「仮想社会」について、正面から研究している本としては、珍しい本なのではないか。
SLの長所はともかくとして、日本におけるSLの仮想社会性についての欠陥は、この本に指摘されずとも、すぐに思いつくものばかりだ。「なにをやったらよいかわからない」、「英語が中心のコミュニケーション」が日本人には難しい。高機能パソコンのスペックが求められる。他の仮想社会との相互運用性がない、など、予想されるものばかりだ。
これらの一連の問題は、多分、すべて乗り越えられるものばかりであろう。たしかに方向性は、この連動した仮想社会のメタバースからマルチバースへの展開は可能であろう。しかし、その技術的な可能性ばかりが問われていて、結局は、仮想社会の相対的な価値、相対的な位置的関係が、まだ十分に理解されていないところに問題があるのだと思う。
たとえばティム・ゲスト「セカンドライフを読む。」などにでてくる、身体に障害のある人々にとっての、仮想社会における「身体の獲得」などは大きなメリットに掲げられてもよいはずだと思う。ただ、仮想社会が現実社会や、その他の動きに十分連動する可能性についてまだまだ未開発な部分が残されている、ということは間違いない。
この本、SLや仮想社会に関心のある読者にはとても興味深い一冊だが、冷めてしまった人々にとっては、ちっとも面白くないかもしれない。この本をこれから解凍して美味しく食べる「冷凍ピザ」と見るのか、冷たくなってしまったおいしくない「冷めたピサ」と見るかは、読者の姿勢に大きく関わる。
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