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2009/12/14

シッダールタ<2> ヘッセ

<1>よりつづく 

ヘルマン・ヘッセ全集(第12巻)
「ヘルマン・ヘッセ全集(第12巻)」

ヘルマン・ヘッセ /日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会 2007/12 臨川書店 全集・双書 382p
Vol.2 No860★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

「シッダールタ」 <2>

 当ブログへのアクセスログ解析による、「読者からのリクエスト」あるいは「読者からのアドバイス」の中に、かなりの数で「シッダールタ」という検索キーワードが入っている。常にベスト10入りしていると言える。その事実を持って、前回読んだ文庫本を、今回もまた読み始めたところだったのだが、途中から、そういえば新しい「全集」があったな、ということに気づき、あらためて全集の中に収められた新訳としての「シッダールタ」を中ほどまで読み進めてきたところである。

 一部と二部に分かれており、ちょうど一部を読み終わったところだが、この全集の中ではさらに、付録が付いており、後から読むのが楽しみだ。一部は、まるでゴータマ・シッダルタの伝記かとみまがうような清浄さと毅立した精神性が端々に満ちており、いかにもヘッセらしい、すがすがしい筆致で物事は進む。しかし、それは、物事の始まりに過ぎない。

 二部に入れば、遊女カマラーとの出会いがあり、そこで世間を学ぶ、ヘッセのシッダールタがある。それはある意味、青春の裏返った痛々しい姿であり、また人間らしい、人間として避けては通れない現実の世界のシッダールタが描かれる。

 この美しい物語について、特にどうのと引用したりメモしたりする必要もなかろう。それをはじめると、キリがなくなり、全文引用なんてことになりかねない。それに、何度か、すでに読んでいるので、物語そのものを追いかけるよりも、いくつかの訳本の相違について思いをめぐらしたり、やっぱり新訳はいいなぁ、と思ったりするほうが多い。

 親友にして、旅の友「ゴーヴィンド」の名前の由来があろう、「バガヴァッド・ギーター」を傍らに置きながら、読み進めている。「バガヴァッド・ギーター」もアクセスログに多くのこされている重要な検索ワードである。こちらも読み進めているところだが、先日めくったものとは違う本を借りてきた。いろいろな訳本があるようだが、当ブログにおいてはまだ決定稿がない。Oshoの愛した本「東洋哲学(インド編)」を読み進めて行くなかで、なんらかの形ができあがっていくだろう。

 ヘッセ全体をまだ見たわけではないが、ヘッセ作品全体のなかで、一番インド色が色濃くでているのは、やはりこの「シッダールタ」であろう。そして、ドイツ人にして、生い立ちからすでにインドとのゆかりが深かったヘッセにおいて、ウパニシャッドやギーター、あるいは仏伝にまつわる世界観理解のギリギリのところにいるヘッセの姿をこの小説の中にみる。

 後に作者自身によって、「生涯の収穫」とまで評されることになるこの作品の完成までの道は決して平坦なものではなかった。第一部の執筆は順調にはかどり、翌1920年8月までに4章を一気に書き上げたヘッセは、その後第二部に取りかかってはみたものの、第四章「河のほとり」まで書き進めたところで行き詰まってしまったのである。彼はその時の状況について、叡智を求めて苦しみ禁欲する若いバラモンを描くことは自らの体験を書くことであったために、当該部分の執筆は順調に進んでいたが、勝利者、肯定者、克服者を書こうとしたところで筆が進まなくなったと振り返っている。彼は自らが生活してこなかったものを書くことに対する無意味さを痛感し、禁欲と瞑想の生活を取り戻すために、意識的にこの作品から一旦離れていくことになる。そうして1922年5月に第二部すべてが完成するまでには、この執筆中断の時期を含めて結局さらに二年近くのもの時間を要することになったのである。p373「解説」

 ヘッセが苦悩した「勝利者、肯定者、克服者」についてのインドの経典などは、ヘッセをおいて、軽く、高く、飛翔しているかに見える。まるで神話のように語られるインドの経典と、生々しい個体としての人生を抱えながら書きすすめられるヘッセの一連の小説の、その性質の違いに留意しつつも、このヘッセ小説とインド経典の狭間にあるリンクが、どれほどのギャップを伴っているのか、は興味深い。こここそが、当ブログに与えられた「シッダールタ」という検索ワードの宿題であろう。

<3>につづく

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