世界改良家 ヘッセ
「ヘルマン・ヘッセ全集(第6巻)」 物語集4 (1908ー1911)
ヘルマン・ヘッセ /日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会 2006/02 臨川書店 全集・双書 329p
Vol.2 No879★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
「世界改良家」
この巻の中にもビッグタイトルはないが、すぐに目についたのが「世界改良家」という、全集にしての30ページ程の文。
1907年3月から4月にかけては、スイス南端アスコーナのモンテ・ヴァリスタ(真理の山)の生活改良運動家のもとで、菜食や裸体での日光浴といった自然療法を試み、1909年8月には、バーデンヴァイラーの医師アルベルト・フレンケル教授のサナトリウムへも保養に出かけている。p324「解説」
ここにでてくる「真理の山」とやらのことが気になる。第一巻の解説においても、コロニーとして紹介されているが、このところに、強い関心をひかれる自分がいる。ここの生活改良家と世界改良家とは、どういう繋がりがあり、どういう違いがあるだろう。あるいは同じことを意味しているかもしれない。もともとの原語ではどういう言葉であったのだろうか。
「世界改良家」は1910年に発表されている。当然、この「コロニー」関連の影響がでていると考えることは間違ってはいないだろう。とすると、この辺で興味深くなってくるのは、1877年生まれのヘッセに対して、1878年生まれのウスペンスキーがちょうどこのころ最初の著書「第四次元」を出版していることである。グルジェフと会う前のことではあるが、時代はそのように動いていたのだろう。
例の「真理の山」とやらのコロニーについてだが、日本でいえば武者小路実篤の「新しき村」も、やや遅れてだが、1918年にスタートしているのも、興味深い。当時のいわゆる「文学者たち」は自然の中で生活することによって、なにごとかをなそうとしていたのであろうか。
小さな家の中に、奇妙な図書館ができた。それは菜食の料理本に始まって、きわめて奇妙な神秘的学説で終わっており、プラトン哲学、グノーシス派、心霊術、神智学などを越え、これらすべての著者に共通するオカルト的な衒学趣味を帯びながら、精神生活の全領域を含んでいた。
ある者はピタゴラスの学説と心霊術の同一性を証明することができ、もう一人のものはイエスを菜食主義の告知者と解釈することができ、またある者は、煩わしい愛の要求を自然の移行過程だと証明することができた。自然は生殖をただ一時的に使用するに過ぎず、その究極の意図としては、個人の肉体的不死を得ようとしていると言うのである。p296「世界改良家」
なんだか、この辺の描写は、100年が経過した現在においても、ほとんどまったく変わっていないので、失笑してしまう。常にこういう流れはあったんだなぁ、と改めて確認。淡々と描写しながら、ヘッセのアイロニーに満ちたしっかりした批判精神が見てとれる。
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