最後のガラス玉遊戯者 ヘッセ
ヘルマン・ヘッセ /日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会 2007/04 臨川書店 全集・双書 531p
Vol.2 No884★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
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「最後のガラス玉遊戯者」
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遊戯の道具である色さまざまな玉を手にして
彼はうつむきながら座っている
まわりに広がる国土は戦争とペストに蹂躙され
廃墟にはキヅタが生えてミツバチが飛び回り
疲れた平和がおぼろげな讃美歌を響かせながら
老年に達した静かな世界にただよっている
老人は色とりどりの玉を数えながら
青玉をひとつ、白玉をひとつ掴み出し
大きな玉をひとつ、小さな玉をひとつ選び出し
それらを輪に並べて遊戯のために整える
かつては象徴をあつかう遊戯において傑出し
数多くの芸術と数多くの言語に熟達した巨匠
世界中を知り尽くす学識を誇り、世界中を旅して回り
世界の隅々にまでその名が知れわたった著名人
そして常に弟子や同僚たちに慕い求められた人だった
今、彼は取り残され、老いて消耗し、孤独に沈み
もはや彼の祝福を求める弟子はひとりもなく
彼を議論へと誘う遊戯名人もいない
みな逝ってしまったのだ
カスターリエンの聖堂も蔵書も学舎もない・・・・
老人はガラス玉を手にして瓦礫の山に憩う
かつて多くを物語った象形文字は
今はただ色鮮やかなガラスの破片にすぎない
それらは高齢の人の手から音もなく転がり落ち
砂の中に消えてゆく・・・・・
p300
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