ルバーイヤート<2> オマル・ハイヤーム
「ルバーイヤート」 <2>
オマル・ハイヤーム /岡田恵美子 2009/09 平凡社 全集・双書 197p
Vol.2 No848 ★★★★☆ ★★★★★ ★★★★★
少しだけできた時間に、通りかかった図書館に立ち寄り、眼についた何冊かの本を借りてきて、傍らにおいておいた。最初、この本を手に取った時は、へぇ、ルバイヤートにはこんな本もあるのか、と思った程度だった。しかし、こうしてゆっくり開いてみれば、なんとこの9月に出たばかりの新刊であった。
11~12世紀の人、オマル・ハイヤームを21世紀の今日、新刊で読めるとは幸せである。いままで出てきた定本よりも、厳選され、より源泉に近い句が新訳で収められている。翻訳者が女性であることも、喜ばしい。
われらが来て、立ち去っていくこの世には、
始まりも終わりも見えはしない
ここでは誰ひとり正しくいえる者はいない、
どこから来て、どこへ行くかと。p27
かつてOshoは、このルバイヤートを絶賛しながら、私たちは、世界中にバー「オマル・ハイヤーム」を持つようになるだろうと、「預言」したことがある。その預言は忘れ去られたのか、これから成就するのか知らないが、オマル・ハイヤームの「酒」はまた、格別だ。
酒をのもう。天はわれらを滅ぼすために、
君やわたしの清い魂を狙っている。
さあ、若草の上にすわって美酒をのもう。
君やわたしの土から、やがて草が生えてくるのだ。p99
オマル・ハイヤームの「酒」は、苦悩の中の、感性を麻痺させるためのペシミステッィクな酒ではない。この世を歌い、賛美するための、感性を豊かに花咲かせるオプティミズムに満ちた美酒だ。
酒をのみ、愉しみを得るわが信条。
信仰にも異端にも耽らぬわが宗旨。
浮世という花嫁に「お前の結納金として何が欲しい」と問えば、
「あなたの心の愉悦(よろこび)と答えてきた。p112
彼にとっては、「酒」とは象徴でもある。それは神のことでもある。
迷いの道から信仰まで、ただの一瞬、
疑惑の世界から確信まで、ただの一瞬、
かくも尊い一瞬を楽しむようにせよ、
この一瞬のうちにこそ、われらの人生の結晶がある。p145
生前、科学者として知られたオマル・ハイヤームは、たくさんの四行詩を遺したが、決して「詩人」としては知られていなかった。彼が知られるようになったのは、19世紀になって西洋に翻訳されるようになってからであった。
酒をのめ、これこそが永遠の生命、
青春の果実なのだ。
バラと、酒と、友の酔う季節に、
幸福のこの一瞬を味わえ、これこそが人生。p163
ヘッセの「車輪の下」で、主人公ハンス・ギーベンラートが飲んでいた酒とは、かなり趣がちがう。
ハイヤームよ、酒に酔うなら、楽しむがよい。
チューリップの美女と共にいるのなら、楽しむがよい。
この世の終わりはついには無だ。
自分は無だと思って、いま在るこの生を楽しむがよい。p167
街のあちこちに隠れた、バー「オマル・ハイヤーム」から、賑やかな酔客たちの歌が聞こえてきそうだ。
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