象の消滅 村上春樹短篇選集1980-1991
「象の消滅」 短篇選集1980-1991
村上春樹 2005/03 新潮社 単行本 426p
Vol.2 No907★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
村上春樹にとっての「ノルウェイの森」は、北山修+加藤和彦にとっての「帰ってきたヨッパライ」のようなものである。あるいはヘッセにとっての「ペーター・カーメンツィント」や「車輪の下」のようなものであり、中沢新一にとっての「虹の階梯」のようなものであろう。あるいはケン・ウィルバーにとっての「意識のスペクトル」や「アートマン・プロジェクト」のようなものであろうか。
いずれにしても、村上春樹という作家の方向付けを決めた一冊が「ノルウェイの森」であり、テーマ性も方向性も、そこで運命づけれたというべきであろう。
「ノルウェイの森」が思いのほかたくさん売れて、それに関連する一連の騒ぎのようなものがあり、精神的にいささか疲れ果てた部分もあった。おそらく新しいフロンティアのようなものを求めていたのだと思う。p17
1991年の初めから95年の夏までアメリカ東海岸に住んでいた著者は、日本のマーケットではなく、アメリカのマーケットにチャレンジし続けていた。一番売れていた外国は韓国なのだが、そこには主なるマーケットを移さなかった。
ただアメリカのマーケットにはそれなりのシビアさがあり、長編などの主要な小説は契約の縛りがあってなかなか出版することができなかった。その時に、考案されたのが、短編をまとめて一冊にして出す方法であり、これなら先立つ大手の出版社との契約に抵触することがなかった。
まとめられたのが1980-1991の短編17編であり、この短編集の成功(したのだと思う)が、その後の世界のハルキワールドを決定づけることになった(のだと思う)。その英語版の選定と配列通りに、もとの日本語でまとめたのがこの本で、2005年に日本語で出版されたのだ。
つまり英文でアメリカに紹介されたハルキ☆ムラカミの雰囲気を限りなく正確に伝えてくれている一冊ということになろう。たしかに最近我が家の近くにできたスーパーの二階の洋書コーナーにも、この「象の消滅」の英語版が並んでいるようだ。
「我らが」村上春樹が、このような形でニューヨークに紹介されたのは、好ましい姿だったと思う。村上春樹、というより、「日本人作家」村上春樹、として紹介されたはずだ。日本人としては、このような「日本人作家」がいる、ということをアメリカ人が知ることは好ましいことだと思う。
でも、最初から、日本人である私がこの作家をこのような形で紹介されたら、関心をもっただろうか。ごく普通の、ちょっとねちっこい文章の同時代的作家、というイメージしか残らなかったのではないだろうか。
というか、最近まで、「村上春樹」には、ほとんど関心はなかったのだが・・・・。
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