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2010/01/27

うずまき猫のみつけかた 村上朝日堂ジャーナル

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「うずまき猫のみつけかた」村上朝日堂ジャーナル
村上 春樹 (著) 1996/05 新潮社 単行本: 237p
Vol.2 936★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆

 ここに収められた文章は、僕が1994年秋から95年秋にかけて「SINRA」というきれいな雑誌に毎月連載していたものです。その連載のあいだ僕はずっとマサチューセッツ州のケンブリッジ(ボストンの隣です)に居を構え、隣町メドフォードにあるタフツ大学に所属していました。ケンブリッジは結局、93年夏から95年の夏まで2年間滞在していたことになります。p236「あとがき」

 ヘヴィーな長編小説の合間に、このようなエッセイ集を書くのも、適度なバランスをとるにはちょうどいいだろうし、読者としても、リアルワールドとフィクションの世界の距離感をつかんでおくには、必要な道路標識とも言える。奥さんの写真や、イノセント・アートの安西水丸のイラストが雰囲気を盛り上げる。

 (1994年)6月28日に全日空機で成田から大連に向かう。これはある雑誌の取材の取材で、写真の松村エイゾー君と二人で旧満州地域とモンゴル共和国を巡る2週間ばかりの旅行をするためである。でもただ単に雑誌の取材だけではなく、僕としては今書いている小説(「ねじまき鳥クロニクル/第三部」)のための個人的な取材をするという目的もあった・・・・というか、実を言うとそっちがずっとメインなわけですね。そう言うと身も蓋もないけれど。いずれにせよ僕は中国という国にぜひ一度行ってみたいと思っていたので、この取材はまあ渡りに増えという感じであった。p050

 作家・村上春樹の作品についてはいろいろ意見もあれど、「成功」した作家というものは、さまざまな特典(有名税みたいなものもありそうだが)がついているようで、なかなかうらやましい生活ぶりだ。本人の努力が一番、効を奏しているのだろうが、それでもやっぱり、社会はこのような暮らしぶりをする人をあるパーセンテージで必要とするのだろう。

 車を一台盗まれるというのが、これほど面倒きわまりない結果をもたらすものだとは僕も知らなかった。保険会社にしょっちゅう電話をかけなくてはならないし、警察署や修理工場にも行かなくてはならい。役所や大学庶務課に行って駐車許可証書を取り直さなくてならい。あちこちたらいまわしにされて、居留守をつかわれたり不親切な扱いを受けたり、時間は無為に流れ、ストレスはたまっていく。なにしろ外国で外国語だから、頭に来て怒鳴りたくてもうまく怒鳴れないところがつらい。p132

 このVWコラード盗難事件は、何回かに渡ってその経過が描写されているが、個人的には相当面白い。「自動車保険の代理店というのはアメリカでもっとも不愉快な時間を過ごせる場所のひとつである」p126とまでのご立腹なのだから、面白い、とは大変失礼だが、なかなかこのようなトラブルは、思い出すのもいやになり、書きとめるのはなかなか難しい。外国業界事情がよくわかってタメになる。

 考えてみれば、これまで僕が書いた長編小説はそれぞれぜんぶ違う場所で執筆された。「ダンス・ダンス・ダンス」という小説の一部をイタリアで書いて、一部をロンドンで書いたけれど、どこが違うかと訊かれてもぜんぜんわからない。「ノルウェイの森」はギリシャとイタリアを行ったり来たりしながら書いたけれど、どこの部分をどの場所で書いたかなんてもうほとんど覚えていない。p100

 なかなか軽妙なタッチではあるが、これは、村上春樹前期の流れの終盤のことである。出版されたは1996年の春であるが、それはいままでの流れがあるからそうなったまでで、この時期のご本人の意識は、もう別な角度で動き出していたのではないか、と想像する。

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