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2010/01/30

特集◎村上春樹『1Q84』を読み解く

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「村上春樹『1Q84』を読み解く」
「文學界」 2009年08月号 文藝春秋 雑誌
Vol.2 945★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆

加藤典洋「桁違い」の小説p216

 私はこの小説は、現在の他の日本の小説家の作品とは「桁違い」、「隔絶している」、それくらいにすばらしい、と考える。p216

 このような評価が、テレビのお茶らけ番組や、新聞雑誌のコラム、あるいは、新書本などの、単発的なものであるなら、それもそうだろうな、と思う。だが、文芸春秋という大会社が発行する文学専門誌「文學界」に登場してくると、なんだかなぁ、という気がする。なぜにこれまでに「桁はずれ」の作品を期待するような言動があるのだろう。

 これは趣味の問題なのであろうから、あまりつっこまないが、プロ野球を球場に見に行くか、自ら草野球を楽しむかの違いのように思える。私は球場にプロ野球を見にいったことは一回しかない。もちろん、ひいきの球団が優勝などの可能性がでてくれば、仕事そっちのけで試合の動向が気になる。しかし、開幕直後から気になるということはない。

 反面、草野球も本当はほとんどやったことはないけれど、自分がPTA役員をやっていた高校の野球部が甲子園にいくことになった時は、数千人の応援団を組織して、球場に押し掛けたことがある。一回戦で負けたけど、まぁ、感動の連動であった。

 まぁ、ここで私が言いたいのは、つまり、安易なエンターテイメント主義がキライだ、ということだろう。下手だけどシロート主義、ってやつが好きなんだな。下手過ぎて、目も当てられない、というのも困りもんだんが、手作り感覚って奴は、やっぱり好きだな。

清水良典「父」の空位p220

 「1Q84」の発行直後ということもあり、ここでの清水の文章はほとんど、内容のダイジェストに終始している。清水は単行本「村上春樹『1Q84』をどう読むか」にも文を寄せている。

 掟の番人としての畏怖されるべき<父>が空位の時代---、まさに1984年ごろの一斉に世界で顕現しはじめたポスト近代社会とは、我々が自らの欲望の地下倉庫の蓋を開放し、守るべき掟を葬った時代であったということができる。p223

 「父」の空位、ってフレーズも陳腐だが、このような論旨で、納得する読者というものがいるのだろうか。無料で読めるブログでさえ、もっとマシなことを書いている人々はたくさんいる。(当ブログは至らないところが多すぎるが) 金を出して読む文学雑誌の、しかも「桁はずれ」に素晴らしい作品の紹介者に選ばれた人の評価としては、なんだかピンとこないな。最初から、「草野球です」って言われれば、そうですか、ってすぐ受け入れられるだけどなぁ。

沼野充義「読み終えたらもう200Q年の世界」p224

 読み終えた読者の頭のなかには、未解決の疑問が渦巻いたままなのだ。読み終えて辺りを見回せば、もう200Q年の世界になっているような感じがするほどである。p224 

 沼野も「村上春樹『1Q84』をどう読むか」に文を寄せている。こちらは、いいな。内容はともあれ、200Q年という発想が素晴らしい。1Q84→1Q95→200Qというパラレルワールドが、当ブログのもうひとつの陽画となりつつある。そしてさらには1Q95→1QQ5、というベクトルもすこしづつ見えてきた。

藤井省三「1Q84」の中の「阿Q」の影---魯迅と村上春樹p228

 村上のデビュー作「風の歌を聴け」(1979)冒頭の一節「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」とは魯迅が散文詩集「野草」に記したことば「絶望も虚無なることは、まさに希望に相同じい」に触発されたものであろう。p228

阿Qと1Q84のQに何事かの繋がりを見つけようとするゲームは、これはお遊びなのか、真剣なのか、どっちなのだろう。阿Qがいた地平と、この言葉がいわゆる1970年代の敗北感の中で語られた時、そして、200Q年の小説の中で語られるときの地平は、同列に並べることができるのだろうか。いささか故事付けにかたより過ぎているとは思うが、このような故事付けサービスを、村上本人が最初から企画しているのであろう。

 今回「群像」と、この「文學界」の、「1Q84」出版直後の特集を読んでみたのだが、ふむふむ、そういうことなの? とちょっと疑問がつくことが多かった。これは、出版直後のほとぼりが冷めたあとに、トボトボとようやく辿り着いた当ブログが、試合終了後の試合会場に来たような境遇にあるからだろうか。

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