カフカの絵本
「カフカの絵本」 恩返し 初めての悩み 羊猫
フランツ・カフカ /たぐちみちこ 2009/03 小学館 絵本 48p
Vol.2 923★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
「海辺のカフカ」を読んでいる時に、奥さんが「こんなカフカもあるよ」と教えてくれた。私は村上作品から気をそらしたくなかったので、そのままにしておいた。長編、長編、と来て、すこし飽きてきたので、他のものもすこし読みたくなってきた。
そして、この絵本に出会ってみれば、なるほど、こんなカフカがあるのだ、と思う。わずか48ページのちいさな絵本の中に、3つのお話が入っている。たぐちみちこが文を書き、田口智子(ふたりの田口=たぐちの関係はいかに?)が絵を描いている。田口智子の絵は、上手なのかどうなのか、私にはわからないが、カフカの「不条理」さにはマッチしている。
「羊猫」? 村上作品には羊も猫もたびたび登場するが、羊猫は、いままで読み進めてきた中には、まだ登場してこなかったのではないだろうか。羊猫とはなにか。村上はこの羊猫をふたつに分解して、羊と猫にしているけれど、本当はこのカフカの羊猫がベースにあって、いつかはこの羊と猫を一緒にして羊猫にするのだろうか。あるいはすでにひとつの存在としての羊猫を登場させており、ある時は猫、ある時は羊、と表現しているだけなのだろうか。
「恩返し」の主人公は、コウノトリのような鳥を飼ってあげるお礼に、大きくなったら自分をその背中に乗せて「南の国」へつれて行ってくれることを楽しみにしている。それは「国境の南」なのだろうか。カフカ作品には「太陽の西」までは書かれていない。
「初めての悩み」。空中ブランコの少年。40歳で短い人生を閉じたカフカ。不条理に満ちたストーリーには結論はあるのか。結論をもたないという結論。物語性を否定する物語性。これはカフカの小説ではなかった。これは「カフカの絵本」だった。
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