風の歌を聴け
「風の歌を聴け」
村上春樹 1979/07 講談社 単行本 ページ数: 201p
Vol.2 917★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
村上春樹の処女作。デビュー作というべきだろうか。1979年。村上30歳。この小説で「群像」の新人賞を取った。3年前に村上龍が「群像」の新人賞を取った。龍はたしか春樹の2~3歳年下で、しかも春樹の経営するジャズ喫茶兼バーに出入りしていた。二人は知人だった。だから、年下の龍がすでに数年前に賞を取った(1977年芥川賞になった)ことが刺激になっただろうし、また、ちょっと焦ったかも知れない。
しかし、小説家になろう、という意図よりは、小説を書こう、という意志のほうが強かっただろう。決して、後年の重厚なパラレルワールドの中で、性と殺人が交錯するようなハードボイルドな内容ではないが、すこしはポップで、すこしは正直で素直だ。そして、後年のハルキワールドへの芽も孕んでいる。
いや、この小説をスタートとして、この小説をあしがかりとして、ここから外れないようにしながら、さらにここから、どんどん遠く離れるようにして歩んできたのが、この作家であろう。処女作かデビュー作かわからないが、とにかく、ここをひとつの原点とみることは間違ってはいない。当然のことだ。
しかし、それでもやはり何かを書くという段になると、いつも絶望的な気分に襲われることになった。僕に書くことのできる領域はあまりにも限られたものだったからだ。たとえば象について何かが書けたとしても、象使いについては何も書けないかもしれない。そういうことだ。p3
多筆であり、多くの読者を獲得している。多くの評論があり、多くの期待を集めている。しかし、その第一歩は軽く踏み出されているようで、実は、重々しい。そして、その重々しさは、現在にも、未来にも、きっと引き継がれることになるのだ。問題の本質は、決して解決はされていない。だからこそ、この作家は、もう少し書き続けるだろう。
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