映画をめぐる冒険
「映画をめぐる冒険」
村上 春樹 (著), 川本 三郎 (著) 1985/12 講談社 単行本 252p
Vol.2 929★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
ここまで来ると村上春樹追っかけもちょっとやりすぎかな、と思う。図書館にあったからこそリクエストして閉架書庫から出してもらったが、もう話題にしないほうがいいような本であるかもしれない。話の本筋にはあまり関係はない。境界域に存在する一冊ではあるが、読み始めてみると、これがなかなか面白い。
その男ゾルバ(1964)
ギリシャの哲人的作家カザンザキスの小説「ギリシャ人ゾルバ」(これは本当に素晴らしい小説)を同じギリシャ人のマイケル・カコヤニスが映画化したもの。哲学的省察はさっぱりと省かれているが、原作の根底に流れる精神は損なわれていない。アンソニー・クインの動も立派だが、それをもりたてるアラン・ベイツの静の演技も立派である。しかしギリシャに行くと、こういうタイプの人ってけっこういるんだよね。 ◎村上 p88
もともと知人の二人が映画についていろいろ語り合っていたところ、出版企画で、過去の映画(とくにアメリカを中心として)を語ることになった一冊。それぞれの映画につき400字詰めで1~2枚程度づつの紹介がついている。それが年代順に並んでおり、数えてみていないが、その数、100はゆうに超えていそうだ。
これらのリストを見ていて、自分はなんてモノを知らない人間なんだろう、と恥じるより、この人たちは、なんてモノを知っているんだろう、と称賛するほうが正しいだろう。ふたり合わせてということもあるだろうが、実際にこんなに映画を見ている人はいないだろう。仕事にしている人とか評論家とでなければ、こんな見れないだろうし、大体において、映画以外にも楽しいことがあるだろうに、と忠告したくなる(笑)。
これだけのインプットがあるからこそ、小説としてのアウトプットがあれだけ多様なものになりえるのだろう。タイトルが「映画をめぐる冒険」となっているが、いよいよ「冒険」が好きなんだなと思う。冒険とは危険を冒す、ってことだろうが、この本そのものからは、危険な匂いは流れだしてはいない。
この本で特筆すべきは、プロデューサーとして「安原顕&ケンズ・プランニング」の名前が奥付にあること。この存在は、「1Q84」において登場するスーパー・エディターのモデルになっている。村上は近年この存在とは決別したようだが、25年前にこの本がでたころは蜜月的関係にあったことが偲ばれる。
もっとも、映画館がすたれ、ビデオが流通し、Youtubeが当たり前の21世紀になると、映画そのものの持っている価値が相対的に低下し、また、評論を書くという行為も、別段に評論家や一部のマニアにだけ許されるものでもなくなってきた。チャンスとしてだけなら、ブログやHPなど、ネット社会は、あらたな機会を多くの人々に与えている。
だから、多分、現代においては、このような本はなかなか登場してこないだろう。村上春樹自身も、そうそうヒマじゃぁないだろう。そういった意味あいにおいては、出版企画力が勝った、出版当時でも珍しい一冊、と言えるかも知れない。
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