日本にノーベル賞が来る理由
「日本にノーベル賞が来る理由」
伊東 乾 (著) 2008/12 朝日新聞出版 新書: 191p
Vol.2 955★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★☆
村上春樹さんがノーベル文学賞を受賞した。「風の歌を聴け」以来の長い読者としては欣快の至りである。祝辞に代えて、この機会にどうしても言っておきないことがあるので、それを書かせてもらう。それはなぜ日本の文芸評論家たちの多くがこの「世界文学」をこれまで無視ないし否定してきたのかという疑問である。内田樹「村上春樹にご用心」p9「ノーベル文学賞受賞のヴァーチャル祝辞」
村上春樹にノーベル文学賞が贈られるのではないか、という期待の声がこの2~3年マスメディアをにぎわしている。その選考過程は秘密とされているので、実際には候補者リストにさえ載っていない可能すらあるのだが、順当に考えて、受賞の資格は十分あると、村上は見られている。はやばやと、評論家・内田樹などは、上記のように、すでに祝辞まで準備している。
「さようなら サイレント・ネイビー」の伊東乾によってこの「日本にノーベル賞が来る理由」が書かれているところが興味深い。プロフィールには「作曲家=指揮者」となっているが、もとは同級生・豊田亨と物理学を学んだ「エリート」で、もし豊田がかの集団性に巻き込まれなければ、いまではこのような活躍をしていたのではないか、という思いがめぐる。
日本で過去にノーベル文学賞を受賞したのは、川端康成と大江健三郎。他に佐藤栄作のノーベル平和賞というのもあったが、あとは、湯川秀樹以来、物理、化学、医学生理学などの科学技術系であり、あわせて16人(この本の出版時まで)が日本人としてノーベル賞を受賞している。科学技術系中心のこの本から、文学賞や平和賞だけを抜き書きしてしまうのは、本書の趣旨を捻じ曲げることになるが、まぁ、そのような読み方も許されるであろう。
昭和24(1949)年、湯川にノーベル物理学賞が授与された背景には、ノーベル物理学賞の選考委員でもある「マンハッタン計画」に責任を持った多くの物理学者たちの明確な「後悔」と「謝罪」の年が込められています。p50
1949年に湯川秀樹博士がノーベル物理学賞を受賞した頃、米ソ両大国は水爆研究や宇宙開発にしのぎを削っていました。そして湯川以降10年の間、原爆開発の「マンハッタン計画」に関わった物理学者へのノーベル賞授与は見合わせられます。p66
ノーベル財団は川端氏を評価して「彼の日本のこころのエッセンスを表現する、偉大な感受性をもった巨匠的な話法に対して」文学賞を授与するとしています。
「日本の文化」「日本の精神」を国際的に高いものとして称揚、承認することが、広島原爆の破壊効果測定責任者アルヴァレズへの物理学賞と同時年にセットされた訳です。p77
川端(康成)氏のノーベル賞受賞講演「美しい日本の私」は、国内外でさまざまな反響を巻き起こしました。しかしそれが「プラハの春」として知られるチェコの民主化運動を筆頭に世界が大きく揺れ、日本国内も全共闘がピークを迎えていた1968年に、アルヴァレズ博士のノーべる賞物理学賞と一にして授賞された事実は、当時の新聞にも殆ど報じられず、その後もなぜか日本では語られることがありません。p78
佐藤(栄作)氏の受賞は、煎じ詰めれば1967年12月11日の衆参予算委員会で発言した「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」といういわゆる「非核三原則」に集約することができます。p79
ノーベル平和賞は個人のみならず法人に対しても授与され、佐藤(栄作)氏への授賞は「日本を平和国家として国際社会が歓迎する」意味に取るべきものでしょう。実際、佐藤氏自身も自分個人への授賞ではなく、日本に対して与えられた賞だと思うと発言しています。p81
ソ連が崩壊して東西冷戦が終わった直後に大江(健三郎)氏は文学賞を受けました。その理由をスウェーデン学士院は、
「指摘想像力により、現実と神話が密接に凝縮された創造の世界をつくりだし、現代における人間の様相を衝撃的に描いた」
としています。ここに「日本」という二文字がないことに注目しましょう。p176
スウェーデン学士院は大江さんに「日本の作家」として以上に、冷戦崩壊後の新しい国際社会で、人類の進むべき方向性や理想を示すオピニオンリーダーの役割を期待しています。とくに「障害」を持つ人々を筆頭に、「人種差別」を超えたさらに先の人類の「非対称」を克服する旗手として、ノーベル賞受賞以後の仕事を期待しているのです。p177
気になるところだけ、ざっと抜き書きしておいた。この文脈から考えていけば、村上春樹がノーベル文学賞を授賞されることになるのかどうかがイメージできてくる。そして作者本人がそれを意識しているとしたら、次なる「1Q84」book3以降の展開がどうなるか、多少は空想することができるようになるのではないだろうか。
上の内田樹は書いている。
私見によれば、村上文学が世界各地に読者を獲得しているのは、それが国境を越えて、すべての人間の心の琴線に触れる「根源的な物語」を語っているからである。他に理由はあるまい。「村上春樹にご用心」p10「ノーベル文学賞受賞のヴァーチャル祝辞」
ひいきのひいき倒しにならないことを願うのみだが、最終目的は当然のことながら、ノーベル賞云々ではない。本当に人類が、地球人ひとりひとりが、どう生きていくのか、「地球人として生きる」とはどういうことなのか、そのことを物語として紡ぎだしてもらいたいものだ。
<追記>p175に次のような記述もある。2010/2/9記
ノーベル賞が西欧人以外に初めて授与されたのは、第一次世界大戦直前の1913年、文学賞がインドの詩聖ラビンドラナス・タゴールに与えられたときです。これと比較するときノーベル平和賞が初めて非西欧人に授与されるのは1960年、アフリカ民族会議のアルバート・ルツーリ議長なので、45年もの時差があります。この間ノーベル物理学賞が30年のインドのチャンドラセカーラ・ラマンに、49年に湯川秀樹博士に与えられています。p175「ノーベル賞が克服を目指す『非対称性』」
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コメント
世界平和は他言語理解からはじめ、相互理解へ!戦争のない未来人類を築き上げましょう!!
日本古典文学革命! 世界文学革命!
現代文de他言語化!とにかくわかりやすく考えていきましょう!!
投稿: 会津太郎丸 | 2014/10/13 10:29
あがさクリスマスが言うように世界で一番平和を望んでいる国が日本!
小さなことで争う人間は醜い!
人類の未来は日本の未来でもある!
投稿: 会津太郎丸 | 2012/10/09 05:56