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2010/03/28

色はことのは Feel the colors <2>

<1>よりつづく
色はことのは
「色はことのは」 Feel the colors <2>
末永蒼生・文 /内藤忠行・写真 2003/10 幻冬舎  単行本 159p

 人類学には、バーリンとケイによる色名についての有名な調査がある。それによれば、世界のどんな文化どんな種族においても、まず、白、黒、赤の色名が順次出現する共通性があるという。もしも、人間の色彩意識ともいうべきものが、この三つの色名から始まったとするなら、そのことは何を意味しているのだろうか。

 それは、人間がこの世界を知るために名づけなければならなかったものの優先順位を、図らずも語っているように思える。いうまでもなく、白と黒は光と闇の象徴、そして、次に現れるのが火の色であり、血の色でもある赤。人間が物の色として最初に名づけたのは赤だったのだ。私たちの祖先は、赤から色彩の旅を始めた。p011

 白、黒、赤。ケン・ウィルバーの「意識のレベル」におけるカラーリングもまずは「赤」から始まるところが興味深い。まずはこのあたりから、相互リンクが起こってくるだろうか。

 赤、人間がこの色を驚きとともに初めて心に刻んだのは、火を目撃した時ではなかっただろうか。人類は火の色を見て畏怖の念の感情とともに「赤」と名づけたにちがいない。日本語の「赤」という文字も「大」と「火」を組み合わせる。 p016

 まるで赤い火に吸い寄せられるような人の群れを見ていると、人々が火の力を通して神々への信仰を深めてきたことが感じられる。赤く燃え上がる火の神に感応して、人々は自らの生命力をも解き放つのだ。赤という色は、人間に強い刺激を与える。なぜ赤が天然の興奮剤になるのであろうか。p016

 赤はもっとも呪術的な色として人間生活の中で定着してきたといえそうだ。この赤は今なお私たちの視覚中枢を刺激し、交感神経を揺さぶる。交通信号の赤ランプが緊張を与え、祝い事に飾られる赤が気分を高揚させるのだ。p017

 古代文明の権力者が、自らの地位のシンボルとして太陽を用いることが多かったのも、このような太陽信仰が影響しているのだと思う。そこには必ずといっていいほど、太陽の赤である鮮やかな赤が使われたのである。p023

 人間の勇気や力を喚起する呪術的な色であるという”赤信仰”は広く世界に見られる。特に、力の誇示をしなければならない闘いの場面では、普遍的といっていいほど「赤」が出現する。p026

 人間に潜在する力を引き出し、勇気を高める赤の力は、時を超え文化を超えて、人の本能が太古から知っていた「闘いのシグナル」なのだろう。p027

 私が、これまでにもっとも心揺り動かされたもの一つが、インドの「ホーリー祭」だ。ヒンドゥー教三大祭りの一つで、2月から3月にかけての満月の夜に、春の到来を祝い収穫を祈るこの祭典は、叙事詩「マハーバーラタ」に従って、クリシュナ神をたたえる。

 見知らぬ他人であれ旅行者であれ、相手構わず色の粉が降ってくる。女が男に、子どもが大人に、高位のカーストの主人に使用人が遠慮なく色を振りまくのだ。(略)

 まさに”色の祭典”! 色によって解き放たれたインド人の熱狂ぶりは想像以上のものだった。p035

<3>へつづく

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