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2010/03/03

納棺夫日記

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「納棺夫日記」  
青木 新門 (著) 1993/03 単行本: 188p 桂書房
Vol.2 983★☆☆☆ ★☆☆ ★☆☆

 読書ブログとしては、この本も記録として残しておかなければならない一冊である。なにを持って一番この本の特徴とするかというと、実は、この本は、図書館にリクエストしてから、私の番が来るまでなんと一年もかかったのである。リクエストしたのは去年の2月25日だった。

 、地域のコミュニティ・センターで町内会の寿会がアカデミー賞をとった映画「おくりびと」の上映会を開催した際、隣組の高齢者たちと一緒になって観賞したのは、去年の5月23日だった。あれからだって、ゆうに9カ月は経過している。

 この本にはいろいろなヴァージョンがあるらしく、あとで気がついてみれば、本当に早く読みたいのなら、文庫本とか増補改訂版があったのである。でも、この初版本が読みたいと思ったことと、当時アカデミー賞ブームもあって、リクエスト数のもっとも多い本でもあったので、一度記録に挑戦、と思って、リクエストしたまま放置しておいたのであった。

 まぁ、それにしても1年は長い。世の中一巡している。こちらの関心もあっちこっち振り回されて、すっかりこの本のことなんか忘れてしまっていた。なぜにこの本はこれほどまで時間がかかったのだろうか。あるいはこの時期、このタイミングで読みなおすべき一冊であったのだろうと、理解することにする。

 もともと人気があったのだろうけれど、図書館の蔵書がすくなく、初版本を読みたいと思う人が多かったなど、いくつか理由があったに違いない。だけど、こんなに時間がかかったことの一番の理由は、この本は、高齢者を中心として読まれているからではないか、と思う。

 あと3人、あと2人、と残りが少なくなっているのに、一向に私の番に回ってこなかった。ひとりひとりが自分の持ち時間(2週間)をたっぷり使って、読んでいたのだろう。若い人たちなら、それほど時間はかからない。本木雅弘が主演の「おくりびと」であるからこそ、映画のほうは、若い人たちにも人気がでたけれども。そもそも、若い人たちはこの本を読まないだろう。

 しかし、それにしてもすごい本である。ある時、古本屋で線香の匂いのする仏蹟めぐりの本を手にとったことがあるけれど、仏壇にでも備えてあったのだろうか。今回、私の手元に来た本からは、なんだか、本当に死臭さえ漂ってくる感じがするのだった。

 この本には「納棺夫日記」と他にふたつの小説が含まれている。悲しい本である。この本を読んで、率直な感想は、山尾三省の詩を読んだ時の、吉福伸逸の感想にやや近い。

吉福 (山尾)三省は、気骨のある男ですから、彼の語っている根っこのところには嘘は全然ないんです。ただ、詩人ですから、言葉が紡がれていくときに、彼の操作が入るんです。ぼくなんかは、「またぁ」っていう感じがすることもあるけれど(笑)。「楽園瞑想」p126

 三省のことは好きだし、いつも彼の本を当ブログで読もうとするのだが、ほとんどそのようにはならない。なぜなのだろうと、いつも思う。だけど、この「納棺夫日記」の悲しさを感じながら思ったのは、結局、三省は「悲」の人だったけれども、すくなくとも私のブログには「悲」は似合わないんだな、ということであった。

 「おくりびとの原作」ではなく、「おくりびとのモデル」とされる青木新門だが、結局は、後半部分を親鸞解説に多くのスペースを割いている。海外において盛んに「禅」を語った鈴木大拙も、晩年は親鸞を語ったという。独自の愛し方でOshoを語った玉川信明も、結局最後は、親鸞の本を一冊ものしている。

 そんなこともあって、いつかは当ブログでも親鸞をやろうと密かに計画を練っていたのだが、この本を読んで、それはやらなくてもいいのではないか、という方に傾いた。自力と他力と言われ、禅と対極のように親鸞が語られたりするが、このアルファベットを使っていると、けっきょくは、過去の余計な文化がへばりついていて、本来の本質が見えなくなることがあるのではなかろうか、と危惧する。

 当ブログでは、ざっくりと、「愛」と「瞑想」のふたつの翼、というOshoの割り切りで行こうと思う。もちろん、愛も、瞑想も、よくわからん言葉ではあるが、だからこそ、面白いのではなかろうか。手あかのついた、時には線香の匂いがし、さらには死臭さえ漂うようなアルファベットを使う「悲」のアルゴニズムはほどほどにしよう。もっと、笑いや踊りに満ちた、歓喜溢れる人生を生きようではないか。

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