人の子イエス ハリール・ジブラーンの詩<2>
「ハリール・ジブラーンの詩」 <2>
ハリール・ジブラーン 神谷美恵子 2003/09 角川書店 文庫 140p 出典「うつわの歌」みすず書房1989からの抜粋が一冊の文庫になった
Oshoは「Books I Have Loved」の中で168冊の本に触れているが、その中でも、カリール・ジブランの「預言者」は二日目に登場し、さらに後日次々に他の作品にも触れ、全部で9作品を紹介している。これは、あの書の中では、紹介された一人の作者としては最多の作品数である。
「預言者の薗」
「大師の御声」
「霊の言葉」
「散文詩集」
「思索と瞑想」
「預言者」は現在、当ブログが確認しただけでも9つの邦訳がでており、ジブランの人気の高さを示しているが、その他の作品となると、「漂泊者」を除くと、ほとんどが日本に紹介されていない。もともと英語ではなく、アラビア語で書かれていることが、邦訳を妨げている要因になっているようだが、他の作品たちの邦訳も待たれるところである。
カリール・ジブランは1931年に48歳で亡くなったが、その年にOshoが生れている。Oshoによれば、ジブランが彼のコミューンにやっているのを待っていたが、彼はまだ転生しておらず、いずれ、別のマスターを探さなければならなくなるだろう、ということだ。
亡くなる3年前に発表されたジブラン最大の作品が「人の子イエス」。イエスについての78人の見方を紹介したものだというが、本邦未訳である。一部抄訳として4章だけが、この神谷美恵子の「イエス」の中で紹介されている。
Oshoはラビンドラナート・タゴールのベンガル語と、カリール・ジブランのアラビア語のふたつを、特に美しい言語として称賛している。それにしても、一読目は気がつかなかったが、こうして再読モードで眺めてみると、Oshoはいかにジブランを愛しているかが、ひしひしと伝わってくる。
同時代人78人と言っても、聖書の中に全然姿も名もあらわしていない人たちが多く含まれているのです。晩年のジブラーンが、いいえ恐らく一生を通じて、どんなに想像力をふくらませて、考えうるありとあらゆる視点からイエスを凝視しつづけたか、が察せられます。
78人のうち、ふつう考えられる人物以外にどんな人がとりあげられているかを少し拾ってみますと、
フェニキアに住む雄弁家アサフ、ギリシャ人の薬剤師フィレモン、ペルシャの哲学者、化ぺルナウムの若い僧、論理学者エルマダム、「メリーの一人」、ギリシャの詩人ルーマノス、ガリラヤの未亡人、バビロニアの天文学者、一人の哲学者、ナザレのヨタム、カエザレアのエフタ、ピラト、エルサレムのくつ直し、ピラトの妻、狂人と呼ばれる老ギリシャの羊飼、高位聖職者アンナ、ローマの番兵、ユダの母キボレア・・・・・という具合に、ただイエスを賛美している人ばかりに語らせているのではないのです。それがかえって歴史的存在としてのイエスの姿を浮きぼりにするのに役立っています。p113神谷「イエス」について
「人の子イエス」全体の邦訳がスタートしているらしいので、出版が待たれる。カザンザキスの「キリスト最後のこころみ」や、エリエット・アベカシス「クムラン」、小森健太朗「神の子(イエス・キリスト)の密室」などと合わせて読んだら面白いだろうか。
第14編
師よ、天の心を持つわれらの美しき夢の騎士よ、
あなたは今日もまた歩き給う。
弓も槍もあなたの歩みをとどめはしないでしょう。
われらのすべての矢をくぐってあなたは歩き給う。
あなたはわれらに微笑みかけ、
われらの誰より若くいまし給うけれども
われらみな父となり給う。
詩人よ、歌い手よ、偉大なる心の主よ、
われらの神があんたのみ名を祝し給わんことを、
あなたの宿りし胎(はら)、
あなたに乳を与えし胸を祝し給わんことを。
そして神がわれらみなを許し給わんことを。p123 ジブラン「イエス」について
「人の子イエス」Jesus, the Son of Man は神谷訳では「『イエス』について」と名付けられている。
以上はジブラーン自身のイエスに対する語りかけのごく一部にすぎませんが、死を間近にひかえたジブラーンの、いわば信仰告白のようなものに思われます。きわめて自由で、言ってみれば異端的かもしれないこの詩のには、バッハのカンタータのような静かで深い響きが感じられます。p124 神谷
神谷におけるジブラン像は、神谷的理解の域をでていないようにも思う。もうすこし全体が見えてくるといいなと思う。
| 固定リンク
「42)One Earth One Humanity」カテゴリの記事
- Books I Have Loved<78>(2010.06.20)
- ミラレパの十万歌<3>(2010.06.19)
- バガヴァッド・ギーター<8>(2010.06.18)
- ミルダッドの書―灯台にして港<3>(2010.06.18)
- 『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する<5>(2010.06.17)
コメント