英文学の地下水脈<2>
「英文学文学の地下水脈」 古典ミステリ研究~黒岩涙香翻案原典からクイーンまで <2>
小森健太朗 2009/02 東京創元社 単行本 244p
☆☆☆☆★
この本、最近、なんとか賞とかを受賞したらしい(第63回日本推理作家協会賞〈評論その他の部門〉賞だった)。この手の研究にとんと縁のない一読者であって、さらになお、この手の賞とやらに、なにほどかの価値を見つけることがうまくできない当ブログとしては、おざなりに、おめでとうございます、とだけ言っておくしかない。
これが国民栄誉賞やらノーベル賞だったとしても、それでもなんだかピンと来なかったりするのだろうから、ちょっと困ったもんだ。なにはともあれ、それだけの努力がなされ、それだけの多くの人の目にとまり、それだけの評価を受ける、ということだから、ここは、やっぱり素直に、おめでとうございます、と言っておこう。
街にでてみりゃ、なるほど、あちこちでこの本が平積みにされたりしている。なにはともあれ、めでたい。
さて、この本自体が、過去の文学作品の数々を著者の立場から、一冊一冊再発見して再評価し、さらなる地下水脈としてその道筋をつけているものであってみれば、まったくの門外漢の通りすがりの一めくり人でしかない当ブログにとっても、まぁ、ここは無手勝流に、極私的に、気ままに、この本をめくっていくしかない。
やっぱり、この本を再読して気になるところは、第二部第八章の「二人のM・C--神智学ムーブメントと女性主義作家の活躍」p157や、第九章「黄金期の諸作家」p175あたりであろう。
神智学の影響は、現代にも及び、現在<精神世界>とくくられるジャンルの書物は、そのかなりが、神智学ムーブメントの影響から興ってきていることが指摘できる。
別章で述べるグルジェフ、ウスペンスキー、オレージらのムーブメントも、神智学に多くを負っていることは否めない。特にオレージは、神智学の幹部クラスの会員で、グルジェフの信奉者になった関係で、キャサリン・マンスフィールドのような、オレージについて神智学を信奉していた作家がグルジェフのもとに流れる現象が生じている。p161
いままで当ブログは、クリシュナムルティとグルジェフを、まったくの別の流れとして、漠然と把握してきたのであるが、ここに至っては、すくなくとも、同根、同じ地下水から汲み上げられた、ふたつの泉、くらいの認識で、このふたりの人物にあたっていかなくてはならないな、と再認識した。
さらには、精神世界の地下水脈は、文学や美術、哲学、という形で表面化したものを古代、超古代から、中世、近世、現代、未来へとつないでいくものであろう、と、想像をたくましくするものである。
オレージは、ロシアで神智学協会に属していたP・D・ウスペンスキーの著書に、早い段階で着目し評価し、1912年にはウスペンスキーを英国に招いてその講演を主催している。その後ロシア革命によってウスペンスキーが国を追われたときに、オレージは、イギリスに住めるように尽力した一人でもある。このウスペンスキーを介して、オレージが、アルメニア出身の神秘家G・I・グルジェフを知ることになる。
グルジェフは、英国のヴィザを申請しても入手できなかったが、1922年に短期的にイギリスを訪れて講演をする。そのときオレージは電撃にうたれたようにグルジェフの人となりと思想に感動し、「本当の師を見つけた」との言葉を発して、編集者と批評家の仕事をやめ、以後の人生をひたすらグルジェフに仕えることに捧げるようになる。いわゆる英国文学史上でいう「オレージ・ショック」事件である。p178
著者にはウスペンスキーを中心に描いた「Gの残影」という著書があるが、まさに、ひとりグルジェフだけに光をあてるのではなく、その周囲に広く注目している著者ならではの、こだわりの一説であろう。
つづく・・・
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