Democracy with a Gun 「銃を持つ民主主義」<2>「アメリカという国」のなりたち
「銃を持つ民主主義」 <2>「アメリカという国」のなりたち
松尾文夫 2004/03 小学館 単行本 415p
☆☆☆☆☆
ジャーナリストと言えば、まず、むのたけじ、を思い出す。「戦争絶滅へ、人間復活へ 93歳・ジャーナリストの発言」。壮絶な、生涯ジャーナリストを誓う存在からのラスト・メッセージである。そのむのたけじが、93歳にして、「朝日を辞めるべきではなかった」p69という発言するのを聞いて、胸打たれるところがある。
ジャーナリストとして生きる松尾文雄もまた、「戦争絶滅へ、人間復活へ」というタイトルに異存はあるまい。こちらは1933年生まれ、77歳の方である。空襲を12歳で体験し、その後ジャーナリズムで活躍し、公職を辞してなお、ひとりのジャーナリストとして、戦争、および、アメリカという国を追う。著者には近刊「オバマ大統領がヒロシマに献花する日」がある。
(ルメイ将軍は)最初は1949年。当時アメリカが所有していた133個の原爆全部を、ソ連の70都市に投下、3ヵ月間で死者270万人、負傷者400万人と言う損害を与えて事実上「ソ連を殺す計画」を作成、トルーマン大統領に拒否される。p40
これが「銃を持つ民主主義」国家アメリカの歴史である。友人setuは「インターネットは、反逆精神が、米国防総省を乗せて作ってるんですよね。」と書きこんできた。右手に核兵器を持ち、左手にインターネットを持つアメリカ、という国。
チェロキー側が激しく反撃、イギリス軍に損害がでたこともあって、最期は非戦闘員を含めて約5000人のチェロキー族が殺害されたうえで、やっと講和条約が結ばれるという悲劇となる。p189
アメリカという国があまりに膨大で多様性を含む国であることもあり、また、ジャーナリストとしての松尾が、生涯をかけた一冊としてまとめようするこの本にはあまりにも膨大な情報が含まれているので、読み手としても、通り一遍読んだだけでは、その概要をつかむだけで精一杯だ。
イチロー、松井秀喜ら多くの日本人野球選手の大リーグでの活躍は、結果としてアメリカのこのマルチ人種パワーのうずに呑みこまれ、その一部となっているという側面を見失ってはいけない、というのが私の意見である。p237
四方八方を海に囲まれた日本というガラパゴスに住んでいると、人種だけではなく、思想、政治の坩堝であるアメリカという国の実態を計り知れないことになる。
「いつかはアメリカにも女性大統領が登場するだろう。ヒラリー・クリントン上院議員だという人も多い。私は忠実な民主党員だから、それも結構である。しかし、もし2004年にブッシュ大統領が再選されると、ライス特別補佐官は国務長官などの要職につくと思う。そうすると2008年以降、ライス女子には、ヒラリー女史と同じように上下両院議員か州知事で選挙の洗礼を受けるプロセスを経たあと、女性初、しかも黒人として初めての大統領に挑戦する可能性が生まれてくるのではないか。(後略)バレオ氏」p373
この本は2003年12月に上梓されている。9.11の陰が色濃く残っているさなか、次なるステージは見えていなかった。ましてや2008年の大統領選挙でバラク・オバマが登場してくることなど、誰に予想できただろう。ヒラリー・クリントンをナンバー2の国務長官に据えたオバマ政権は、まさに、有色パワー、女性パワーの象徴となるのだから、まさに、アメリカという国のダイナミズムには計り知れないものがある。
とにかくイラクへの自衛隊派遣は、こうした日本とアメリカとの関係を、根本から考えるチャンスとして、生かさなければならないのだ、と思う。そのためには、まず一度「アメリカという国」を、そしてその「銃を持つ民主主義」をとことんとらえ直さなければならないのだ、と思う。p390
ここがこの本の結句である。そして、生涯をジャーナリズムに賭けてきたおひとりの日本人としての心境である。ここから2009年のオバマ大統領がヒロシマに献花する日」に繋がっていく。
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