ツイッターノミクス<2>
「ツイッターノミクス」 <2>
タラ・ハント/村井章子 2010/03 文藝春秋 単行本 288p
☆☆☆☆★
この本を偶然、図書館の新刊コーナーで見かけた今年の5月と違って、今回この本を手にしたのはだいぶ意識的にである。5月の段階ではツイッターとは何か知らなかったし、むしろうるさいと思っていた。できれば触りたくないのだが、騒々しいので、ツイッターとやらを知ってやろう、という野次馬根性があった。
だが、この本は「ツイッターノミクス」という思わせぶりなタイトルであるのにも関わらず、話題がツイッターに集中しておらず、こちらの「好意」を袖にされたようで、あまり気分のいい読書体験ではなかったのであった。
しかし、それは二重に勘違いが起きたための悲劇であったのだ。ひとつは、この本を日本に紹介しようとする場合に、このようなタイトルにしてしまったこと。そして、そのツイッターとやらに、批判的に接しようとした当ブログが、この本にツイッターとやらの「具体性」を求め過ぎて、失望してしまったこと。
実は、この本は、そのように紹介されるべき本でもなかったし、そのように読まれるべき本でもなかったのである。もう少し落ち着いて読めば、この本はとても面白い一冊だったのだ。ひょんなきっかけでツイッターとやらのIDを取得して、私もすこしつぶやいてみた。これがそれなりに(なんて言うと怒られるかな)面白い。
現在のところ200個くらいのつぶやきをアップしたけれど、こんなもんでいいんだろうか、と思う。なんかいろいろありそうだぞ。そこんとこ、今はすこし研究中。少なくとも、当ブログとツイッターは連携をし始めている。ここに書いたことをツイッターでつぶやくと、そこからリンクしてこちらにやってきてくれる人たちも増えてきた。古くからの友人たちも、アップするとすぐに「なう」な感覚で飛んできてくれる。だいぶ違ってきた。
ウッフィーとは、信頼、評判、尊敬、影響力、人脈、好意などなどの積み重ねの中から生まれるものである。ウッフィーを増やすのに資本金や規模は関係ない。ホームワーカーも、小さなお店の店主も、アーティストも、NPOも、ソーシャル・ネットワークを使ってウッフィーを増やし、ビジネスを広げている。p38「ウッフィーって何?」
この本のテーマはここでウッフィーという名前で語られているものについてなのだ。はからずも勝間和代が「無形文化資産」と呼ぼうとしていたものにちかい。しかし、タラ・ハントの「ウッフィー」はもっとデリケートなもので、勝間がいうところの「フォロー数」や「フォロアー数」の数字的な集合体のことではない。
そしてそれは、かつて梅田望夫が言っていた、ネット上に小さな単位のアフェリエイトを集める仕掛けを作ってすくい取るようなメカニズムでもない。むしろ、一般社会における人間関係の「徳」ともいうべきものだ。もっとも度が過ぎれば「悪徳」となるだろうし、人はそれを奢らず、静かに「陰徳」として秘匿すべきものですらある。あるいは、もともと計量化なんてできるものではない。
旧来のマーケティング手法、グループセグメントは、ウェブではうまく働かない。ただ一人の顧客を思い描いて、商品を設計し、語りかける。するとうまくいくのだ。p111「ただ一人の顧客を想定する」
当ブログのスタート地点では、14歳の少年少女に働きかけるようなつもりで書き始めた。それは、14歳だった自分を思い出そうとする行為だったり、いずれ14歳になるであろうまだ生れぬ未来の少年へ向けたものだったりした。しかし、それは必ずしもうまくいかず、結局は、ネット上のひとりつぶやき、モノローグになってしまっている、と反省する。
ネット上でただ一人、と言われるとこれはなかなか難しい。友人の誰か、というと、すでにほとんどが50歳を超えた老境に入りつつある連中ばかりだし、自分も含め、ネット上における平均値やスイートスポットを直撃しているとはとても思えない。
ネット上の人口のピークは30歳前後だと思うが、最近は後ろに5歳ほどずれていると言われる。そう言った意味において、この本の著者タラ・ハントは1973年生まれの30代半ばである。しかも、どうやら女性だ(笑)。初読の時は、そんなこともどうでもよくて、ツイッターの部分だけを読もうとして失敗したのだった(爆)。
ネット上の30代半ばの女性に働きかけるような想定は、極めて的を得ているものであるようでもある。つまり、この本はネット上の象徴的「ただ一人」の顧客の動きを、著者の動きから類推していく、という形になっているのだ。
ちょっと前に、近くのデパートの隣の売り場が大きく拡大された。ターゲットは、30代の子連れ女性であるという。オープンニングに出かけてみたが、すでに子育てが終わった初老の男が座るスペースもなく、どこか疎外感さえ感じられる。この頃よく郊外に出店しているアウトレット・モールとやらも、その賑やかさに反して、どうも落ち着かない。居場所がないのだ。
まぁ、それはそれでいいのだ。シルバー予備軍はシルバー・マーケットで遊んでいればいいのだが、はてさて、ネット上で遊ぶには、それではすこし自分の活動エリアを狭め過ぎている感じがする。まずは、もうすこし視野を広く取りたい。
SNSやツイッターにしても、メインターゲットを30代の女性、としている節もある。この辺、某巨大掲示板とは、いささか趣を異にするだろう。各ブログにおいては、当ブログをはじめとして、それこそまちまちであろう。
失敗するのではないかと不安になったとき、私はTwitterを使う。「こんなこと始めたけど、うまくいくかなあ」ってつぶやいてみるのだ。初めての本(この本である)を書くことになったときも、そうだった。p198「無秩序をあえて歓迎する」
タラ・ハントは文章から類推するに、きわめて素敵な女性だ。私は若い時からカウンセリング繋がりで30代の女性ともけっこう知り合ってきたし、長じて子育て時代には、いわゆるPTA活動も積極的に行った。だから、30代の女性のいろいろな面を知っている。そして、いろんな女性がいることも、知らざるを得なかったw。
そうした中で、もしタラ・ハントのような女性がいたら、とてもホッとしただろう。多分この女性は、次第にリーダー的立場を与えられ、決して権力的ではなく、全体をみんなの力を借りながらまとめていく、天性の才能を発揮するに違いない。
1)固定観念にとらわれない
2)オープンにする
3)まちがいを認める
4)成功の定義を見直す
5)目標を設定する
6)達成度を測る指標を決める
7)質的な指標を探す
8)指標偏重に気をつける
9)外に目を向ける
10)仕切ってはいけない
11)そして辛抱強く p207~218
ここに掲げられたものはなにもネット上だけのものではない。むしろ「健全」なコミュニティづくりにおいては当たり前のことである。ある意味では、ここで語られているSNSやブログやツイッターは、井戸端会議のようなものだ。井戸端だけで社会は成立しないし、井戸だけ掘ったところで井戸端会議も成立しない。
前回、私はこの本の中に、井戸の掘り方を求めてしまった。それではいけない。ここに書かれているのは井戸端会議の運営のしかただが、著者は、地域や社会的な広がりがあってこその井戸端であることを、キチンと理解している。そしてまた、「有用」な井戸端会議の運営の仕方を知っており、ささやかながら、その輪を広げようとしている。
ウッフィーつまり信頼や評判を勝ち得るには、コミュニティとの関わり方で量より質が大事になってくる。もちろん数字的なことがどうでもいいわけではないが、それが最優先目標ではなくなるということだ。私自身は、コミュニティの「健全性」重視している。健全であるとは、やや抽象的な言い方になるが、質的・量的な指標がともに好ましい方向に向かっていることを意味する。p211「成功の定義を見直す」
この辺の感覚、「勝間和代X香山リカ・公開ガチンコ90分」あたりで、あられもない姿で金網デスマッチ・ショーに出場している選手たちには、すこし見習ってもらいたいものだと思う。
著者のタラ・ハントが核となる概念として用いているのが「ウッフィー」だ。
「マジック・キングダムで落ちぶれて」という小説のなかにある仮想の通貨。それは、他人に対して善行をおこなうことで蓄積されていく。そしてその世界では、すべての決済は「ウッフィー」でおこなわれる。p276津田大介「解説 日本のツイッターノミクス」
津田は「Twitter社会論」を描いているし、「家電批評」のスマートフォンについての鼎談でも発言していた。あるいは、先日はNHKテレビ「クローズアップ現代」のツイッター特集でもゲストで出演していた。
ツイッター個体として見ると、見えないことがたくさんある。しかし、避けざるを得ない地球人たちの今日的ライフスタイルとしてのネット社会の中で、あらためてツイッターを見ると、それこそグーグル検索を超える新しい視点が見えてくる。そしてそれを「そう」育てようとしている人たちがいる、ということも分かってきた。それはツイッターそのものを生みだした人たちであり、それをそう活用している人(一部ではあるが)たちである。
「“つぶやき”は社会を変えるか?」。ストレートにイエスとは言えない。しかし、育て方、育ち方によっては、イエスと言える。すくなくとも、今の段階では、ノーと言いたくない。
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