クラウド時代と〈クール革命〉
「クラウド時代と〈クール革命〉」
角川歴彦/片方善治 2010/03 角川書店 新書 214p
Vol.3 No.0159 ☆☆★★★
この人のお兄さんが華々しいニュースになったものだから、ついでにこの人も話題としていろいろ語られたが、さて、実態はどういうものかはよく分からない。いずれにせよ、日本におけるコンテンツ産業経営者一族の一角に、どっかりと存在観を示している人物であることは間違いないだろう。
この本、日本や世界のIT進化の流れをこまかく俯瞰しているが、実は、それって本当?って思ってしまうところがいくつかある。例えばウィンドウズ95の発売を1996年にしたりしている。小さな違いだが、あの年の三大話として、阪神淡路大震災、麻原集団事件、そしてウィンドウズ95、として語られているわけだから、ここはしっかりと95年としなければならない。ましてや名前にさえ銘記されているわけだから。
察するに、この人、KJ法かなにかを使って、ベタな情報を並べてパッチワークしたのではないだろうか。ひとつひとつはそれでいいのだが、そのつなぎ目が、時々おかしくなる。ましてや、その時代時代を、ひとりの同時代人として生きていたら、好き嫌いは必ずあるもので、すべてベタに横並びになどできるものではない。もしいたとしたら、そいつはほんとに起伏のないベタな奴、ということになる。
片山善治・監修となっているが、この名前は、自分より年上の尊敬すべき人の名前を借りただけで、むしろ角川歴彦・監修が正しいのではないか。本自体は、彼の事務所のスタッフが、下ごしらえをして、多少のニュアンスを後から加えただけなのではないだろうか。だって、この本の8~90%は、誰が書いたって、こういう歴史になるじゃん、という、おざなりなもの。
その勘繰りが図星なら、この本の読まれるべきは、最後の30ページほどの「提言」しかない。そして、そうなってしまうと、あとは岸博幸の「ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化」と大差のない結論となってしまう。あえていうなら、こちらの本のほうが救いがあるとすれば<クール革命>を取り上げていることだろう。
でも、そのクールの意味をアニメや日本的コンテンツに求めようとするあたり、本当は理解していないのではないか、という疑念が湧いてくる。いや、私とてよく分からないのだが、私は、このCoolのCを、ConsciousのCへと、強引に結び付けて考えてしまう。漫画やアニメやコミケの中にCoolnessを求めるなんて、実に限定的な矮小なものだ。それでは、最終的な人間理解を小さなものにしてしまう。
この人も、もう一歩だ。いや、その一歩がかなり大きな隔たりを作っている。はっきり言えば分かっていない。あるいは、一読者としての私の希望を満たしてくれていない。分かっていないのか。あるいは、コンテンツ産業の一人のドンとして、限定的に表現することでしか、自分の出版社から本を出すことはできないのか。
とにかく、この人は、兄貴ほどには「壊れて」いない。
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