ルポ電子書籍大国アメリカ
「ルポ電子書籍大国アメリカ」
大原ケイ 2010/09 アスキー・メディアワークス 新書 191p
Vol.3 No.0170 ☆☆☆☆★
タイトルからして「新聞消滅大国アメリカ」とセットになっている一冊と言ってもいいのではないだろうか。「☆☆☆大国アメリカ」というタイトルは最近のハヤリでもあるようだが、ほとんどは単なる絶賛ではなく、鋭い皮肉であることが多い。「ルポ電子書籍大国アメリカ」というタイトルも、決して、アメリカ文化を絶賛しているわけではなく、批評的な視点から落ち着いてアメリカの電子書籍の状況を見つめている。
帰国子女のなれのはて、ということだから、女性なのだろうか。いや、子女とは男子も含まれているはずだから、男性なのかもしれない。いずれにせよ、この本全体的に漂うユニセックスな感覚が心地好い。NY在住出版エージェントという肩書が、何ともカッコイイやら、妖しいやら。すくなくとも、日本における電子出版状況を語る、浮足だったセンセーショナルな論調はこの本にはない。
日本においては、iPhoneやアイパッドがらみで黒船来襲のごとく語られ過ぎている向きもあるが、アメリカの電子出版の状況はもうすこし必然的な、当然の帰結的な現象としてあるようだ。例えばキンドルで読まれている日刊新聞などは、そもそも地方紙そのものがどんどん姿を消しており、また宅配システムの質が低く、電子出版に移行せざるを得ない状況がある。一般的な出版においても、そもそもの本の成り立ちが違うようだ。再販制度や、ペーパーバック本の扱われかたなど、日米の出版の在り方には、少なくない違いがある。
個人的に私は現在のところ、ネットからリクエストした本を図書館まで自転車で受け取りに行って、自宅のソファーで寝っころがって読むというスタイルが一番いい。まず経済的に負担が少ないことと、紙媒体という慣れ親しんだ手触りに、別に飽きているわけではないからだ。もちろん新刊がすぐ読めないとか、気にいった本でも手元に保存できない、という欠点はある。
そんな時は当然身銭を切って書店で購入するわけだが、保管するスペースの問題もあり、出来るだけ少ない冊数にしたい。だから、敢えて新しいガジェットまで揃えて電子書籍のお世話になりたいとは、正直思わない。必要な時は、ノートパソコンで読めれば十分じゃないか。他に読むものはいっぱいあるし。こういう保守的な態度は、経済効果も生まないし、文化や科学の進化に貢献しないのかもしれないが・・・。
アメリカ国内でのアマゾンのサービスやビジネスモデルをつぶさに観察していると、日本での活動はまだ「様子見」の状態だと察せられる。(中略)アマゾン側も、きちんとQCに目を光らせていなかったりと、本国のサービスや対応には及ばない、ワンランク下のクオリティで商売をしているように思えてならない。p078「アマゾンの本当の力」
日本における電子図書が、すでに歴史があるのに、いまだ「元年」と言われる理由がこの辺にあるだろう。まだ海のものとも山のものとも判明できないところがある。
この業界でまことしやかなに信じられている数字に、全くなんのマーケッティングもしないで本を出した場合、売れる部数は500冊だ、といわれている。これを多いと思うか少ないと感じるか、はたまた本当なのか知る由もないが、仮に1冊10ドル、印税率10%のペーバーバックだとしたら、500部捌けて著者の手元に入るのは500ドル。p104「電子書籍で70%のおいしい印税生活が実現するのか?」
単なる読み手としてだけでなく、サービスの提供側、あるいは本の書き手にさえなる可能性があるわけだから、それぞれの立場でソロバンをはじいている姿が見えてくる。
日本政府が日本のアニメ・マンガ文化を「クール・ジャパン」というスローガンの下で輸出を奨励している。
だが、メイド・イン・ジャパンの自動車と違って、こちらはただ「ものづくり」に専念していれば受け入れられる類の輸出ではない。世界に向かって、エッチなものも含有していこそのマンガ・アニメ文化なのだと胸を張って言う勇気があるかどうかが、今後問われることになるだろう。p126「アップルが電子書籍にもたらした功罪」
この本、最終脱稿が8月20日だ。日米の最新事情が見えてくる。
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