« 山で暮らす愉しみと基本の技術 | トップページ | ながそねの息吹―ことむけやはす〈2〉 »

2011/02/26

「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア ジョナサン・ドーソン<2>

<1>よりつづく

【送料無料】世界のエコビレッジ
「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア<2>
ジョナサン・ドーソン/緒方俊雄他 日本経済評論社 2010/09 単行本 145p より抜粋 
「山の椒エコビレッジ」ブログに併記

 エコビレッジ運動は、目的共同体の生活に関する古代思想が1960年代から1970年代にかけて出現した国際的な環境保護運動に出会ったときに誕生した。エコビレッジとは、「人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法を採用することにより、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの集落である」と定義されている。すなわち、それは、平和的に相互依存的な集団生活を営む持続可能な共同体である。p5

 エコビレッジは、目的共同体のなかでも、最も革新的で最も可能性のある形態である。しかも、私は、世界に広まる環境保護運動の先頭に立って2つの深遠な真実を統合させると信じている。その1つは、人間生活は小規模で協力的・健康的な共同体においてこそ最善の状態にあるということ、もう1つは、人間性を追求する唯一の持続可能な経路は伝統的な共同体生活復活と向上にしかないということである。p9

 (エコビレッジの定義は)人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法を採用することによって、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの、生活のための機能が十分に備わった集落である。p12

 エコビレッジは、さらに他にも現代的な数多くの系譜によって構成されている。1960年代から1970年代にかけての大地への回帰運動やヒッピー運動は、主流派である物質主義的な価値観に対する若者たちの拒絶であり、人間同士が再び相互に理解し信頼関係を築くことへの切望、欧米での共同体の再現を試みる多種多様な実験の着手を象徴していた。p16

 エコビレッジを形成する運動は、おそらくグローバル経済への従属に対抗する最も包括的な対応手段である。世界中で、人々は現代生活の特徴である、浪費、公害、競争、暴力から抜け出そうとする共同体を構築しつつある。p23

 エコビレッジは、生態系の回復、共同体の強化、地域経済の振興、精神的洞察力の深化などの観点から、社会の大きな目的に貢献しているものであると見なす傾向がある。ほとんどのエコビレッジは、世界中の多くの人々に、自らの教訓と見識を伝える方法として、教育的な活動やその他デモンストレーション運動に携わっている。p27

 まさにエコビレッジという概念がはたして首尾一貫性を保持するのか、という疑問を持たれるのも当然である。エコビレッジという言葉がそうしたさまざまな環境・ビジョン・戦略を説明するのに使用されているならば、その言葉がもつ本当の意味を保持することができるであろうか。私はできると思う。なぜなら、それは、5つの基本的特性に基づいているからである。どのエコビレッジも、程度の差こそあれ、以下の5つの基本的特性を共有していると見なすことができる。p42

 第1は、人間社会のおける共同体(コミュニティ)の卓越性である。エコビレッジは、おそらく何よりもまず、現代の危機的状況が生みだした疎外や孤独への対応である。それは、有意義な共同体において再び他人と結びつきをもち、ヒューマンスケールの社会において有用で尊重される住民になりたいと考えている人々の渇望に答えている。p42

 第2は、エコビレッジは、程度の差があるにせよ、すくなくとも初期の段階では共同体における住民自身の資金・創造力・ビジョンに全面的に依存する市民の新たな取り組みである。大体において、こうしたことは、政府や他の公的機関に対して広く行き渡った不満と、それらと、仲たがいにも起因している。p42

 すべてのエコビレッジに共通する第3の明らかな特徴は、それらの共同体が、自分自身の資源の支配権を取り戻すことに取り組んでいることである。突き詰めて考えれば、それは、自分自身の運命に対する支配権を取り戻すことである。p43

 エコビレッジのすべてに共通して見られる第4の特徴は、どんなエコビレッジの中心にも価値観が共有される強固な主体が存在することである。それは、いくつかのエコビレッジでは「精神性(spirituality)」という言葉で説明されている。これは、やや論争のある主張である。というのは、一群のエコビレッジの内部にも外部にも、その言葉に疑いを抱いている多くの村民がいるからである。44

 共通する最後の特徴は、第4の特徴と密接に関連しているもので、エコビレッジは、それぞれの分野の実地調査と専門性における研究、デモンストレーション、そして(大抵の場合)トレーニング・センターとして機能しているということである。p45

 (エコビレッジとは)民間人による新たな取り組みであり、そこでは、共同体主義者による推進力が何よりも重要である。それは共同体の資源の支配権をある程度取り戻すことを目指し、(しばしば「精神性」と呼ばれる)強固に共有された価値基盤をもち、研究やデモンストレーションそして(多くの場合)トレーニングセンターとして機能している。p45

 エコビレッジを形成する論理的根拠の非常に重要な部分には、人々がより健全でより持続可能なかたちで自然界に溶け込み、より地球に優しい人間用の住居を形成したいという要求がある。p49

 ローテク、ハイテクを問わず、エコロジカル・フットプリント指数の値を大幅に低下させるほとんどのエコビレッジに見られる顕著な特色は、程度の差はあるにせよ、調和のとれたホ―リズム的性格であり、エコビレッジ内部での資源循環を高め、外部からの投入量の削減を可能にしている。例えば、台所の生ゴミは、容易に堆肥として共同体の庭に利用できるし、共同体の森林を定期的に伐採することによって、住民の暖房用ストーブや木質ペレット暖房装置に燃料を供給し、バイオ技術を使って処理された廃水は食糧生産地域で利用され、伐採された木材や廃材は新たな建設事業に使用されている。p55

 比較的最近まで、ほとんどのエコビレッジ教育は現実には非公式なものであり、正規の学校や大学に基づく教育過程とは無関係で、一般に公認されていない講座に出席するために、各々の個人が授業料を支払ってきた。こうした性格の講座では、パーマカルチャーやエコビレッジの設計、再生可能なエネルギー・システム、美術工芸、興行芸術、精神性など、様々な内容を扱っている。p82

 従来の教育システムと教授法の制約から逃れて、共同体全体を壮大な社会的・技術的な実験室であり教室として利用する便宜が与えられているので、エコビレッジはこの種の教育の包括的な設計と提供において熟達した存在となっている。数多くのエコビレッジは、卓越した研究教育拠点として国内外で認められ、その結果としてこれまでに数多くの賞を受賞してきた。p83

 エコビレッジは、多様な領域において新たなモデルを開拓している。有機農業、地域支援型農業(CSA)、建築技術、障害者と健常者を包摂した集団、地域通貨、太陽エネルギー技術、バイオ技術を使用した廃水処理プラントなど、その後より広範囲にわたり一般社会に採用されるようになる新たな技術あるいはモデルを導入する先頭に、いつもエコビレッジが立っているので、人に強い印象を与えているのである。

 技術革新を導入する場合、エコビレッジは、他の変革主体と比べて、より速く、より大胆に行動できるという特性を持っていることは明らかである。エコビレッジが小規模であること、そして価値観が共有されているということは、明らかに良い結果をもたらしている。また一方で、等しく重要なことは共同体としての側面である。p87

 無邪気に「どのようにしてエコビレッジを形成するのですか」と訊ねる人々は、単純で有益な回答をめったに得ることができない。この10年間にわたって期待されたほどには、エコビレッジは急増しなかった主な理由の1つは、ほとんど間違いなく、エコビレッジの住民となることを志望する者が従うべきひな型が欠如していたということだ。そうしたひな型の形成は、エコビレッジ推進運動の前にはだかる大きな仕事の1つである・・・。p95

 エコビレッジの創設において、中核となるグループを確認し、土地を見つけ、地域計画当局に働きかけ、投資資本を調達し、適切な法体系を作り、建物を建設し、どのようにして所得を得るか、どのようにして所得を分配するかという意思決定機構を決め、利害対立を処理するなどの、エコビレッジの形成に関わる第一歩は決して簡単な仕事ではないということは、確かな事実である。それにもかかわらず、一般的に認識されるひな型あるいはモデルと見なされるケースが欠如していることによって、しばしば将来エコビレッジとなるつもりの各新規グループが一からやり直すはめになっているのである。p108

 エコビレッジの複製を容易にするひな型を形成する問題に関して、最後のポイントは、エコビレッジ内部には、とりわけ個人が自分の家屋の設計や建設に関わりたいという要求に表れているように、強い無政府主義的傾向があるということである。エコビレッジにとって、このようなぜいたくが相変わらず適切で入手可能なものなのか、と問いかけるのは、時機を得ているかもしれない。p110

 この提案事項には、以下のものが含まれている。
●当該プロジェクトには、自動車使用を最小限に抑える計画が用意されている。
●当該プロジェクトには、ゴミの発生を最小限に抑え、可能なかぎり現地において再利用、再生利用を計画する。
●当該プロジェクトには、エネルギー保全、再生不能エネルギー源への依存度を徐々に実行可能な最小値にまで縮小する戦略を持っている。
●当該プロジェクトは、現地で追求されているいかなる活動も、近隣か社会一般に対して過度に迷惑な行為となることのないことを立証できる。

 こうした条件の導入は、見直し期間の設定と共に、かなり明白な利点をもたらす可能性と一体となって、地元当局にとってリスクの少ない戦略を作り上げるだろう。
P114

 歴史的文脈のなかで、エコビレッジが主流派社会に対して既存のものとは別の道に進むことを選択することはもっともなことである。主流派のなかでは、エコビレッジの住民たちが夢想する類の小宇宙的社会を形成することはほとんど不可能であったであろう。さらにまた、支配的なパラダイムから身を引いて、新たなパラダイムの形成に参加するという行為は、それに対する大胆な魅力をもっていた。エコビレッジは、自らの掌中に権力を収めることができる能力を示すことによって、大きな信頼を得たのである。

 世界は、今や大きな転換期にある。将来のエネルギー不足は、共同体には、エコビレッジがこれまでに開拓しつづけてきた道に沿った地域再生以外に選択の余地がないことを意味している。幾つかの点において、エコビレッジはきわめて独特であるが、その他の点においては、以前と比較してかなり「主流派」に近づいている。これまでの長期にわたり共同体に居住してきた者は、ヒッピーや変人としてより平凡な隣人たちの冷笑の的にされていたことは、それほど昔のことではなかったことを記憶しているが、現在では、共同体で開発した生態学的技術の視察にやって来る当局の代表団を受け入れている。

 これは、エコビレッジにとってチャンスである。このチャンスとは、「代替案になっている」安全なニッチをあえて残しておくことであり、今後数十年にわたって主流派社会を支援するという課題に熱意をもって喜んで応じることである。こうしたことを実現させるには、エコビレッジと地方自治体が相互に友好関係を表す歓迎の手を差し伸べる必要があるのである。p116

<3>につづく

|

« 山で暮らす愉しみと基本の技術 | トップページ | ながそねの息吹―ことむけやはす〈2〉 »

39)メタコンシャス 意識を意識する」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア ジョナサン・ドーソン<2>:

« 山で暮らす愉しみと基本の技術 | トップページ | ながそねの息吹―ことむけやはす〈2〉 »