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2011/02/07

「2050年」から環境をデザインする 都市・建築・生活の再構築<1>

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「『2050年』から環境をデザインする」 都市・建築・生活の再構築<1>
日本建築家協会 2007/10 彰国社 単行本 279p
Vol.3 No.0247

 「エコビレッジ」をキーワードとして最寄りの図書館を検索すると、この本もでてくる。「世界のエコビレッジ 持続可能性の新しいフロンティア」「人工社会―エコビレッジを訪ね歩いて」 と、その冊数は多くないが、なかなかインパクトの強い本たちである。

 エコロジーについてもいろいろな意味があります。フランスの哲学者フェリックス・ガタリはエコロジーを三つに分けています。それは、自然生態系のエコロジー、ソーシャル・エコロジー、そしてスピリチュアル・エコロジーの三つです。このエコロジーという概念は21世紀を主導していく思想の1つだと思います。

 また、心理学者のケン・ウィルバーは、ニューエイジ運動のリーダー的存在だったのですが、彼は「統合的世界観」と言っています。それは、物性・感性・精神性というように、単に感じたり知っているということを超えて、禅的にいえば精神的なやすらぎも含めながら、ものをつくったり環境をつくるときの考え方です。p113糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 この本は2007年の段階で、日本建築家協会(JIA)の専門家たちが、2050年の地球社会を想定しながら、いまここで、どのようにしていけばそのようになるか、というアイディアを提案している。15人ほどの専門家たちが書いており、いわゆるエコビレッジそのものを書いているのは2人しかいないが、それでも、全体としてはすべて関連してくる内容だ。

 イタリアの哲学者であり政治家でもあるアントニオ・ネグリは、大衆ではなく知を持った群衆を「マルチチュード」と呼び、この知を持った人々が、地域の特異性を生かして、改めて協働性や共生を尊重し社会をつくることを主張しています。ソーシャル・エコロジーを単に哲学的な領域にとどめず、このように地域規模のグローバリゼーションの状況下において地域をどう考えるかは重要なテーマだと思います。p116糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 ガタリはともかくとして、ウィルバーネグリなど、当ブログでも散発的に読み進めてきたリストが、この辺でいきなり繋がったりするからドギっとする。こまかい装飾詞はともかくとして、建築家たちが、哲学や心理学との関連を強く意識していることに、我が意を得たりと納得する。

 「バイオりゼーション」という言葉があります。これは「バイオ(生命・生態)」と「リージョン(地域)」の合成語で、生命地域、生態地域という意味で、アメリカの詩人・哲学者のゲーリー・スナイダーが唱えています。

 彼の著書「惑星の未来を想像する者たちへ」(A Place in Space)の中で、「われわれが地球のある場所に居を構えるということは、そこに定住するということだが、今やらなければないけないのは、そこにもう一度再定住するということだ」と言います。地域のもつ力や生命系などを理解したうえで、改めて意識的に地球に再定住することが重要だと言うのです。

 パーマカルチャーやエコビレッジは、そういう意味でいうと、建築も社会も環境との調和において、総合的なデザインが必要だと思います。私としては、この総合的デザインとしてのパーマカルチャーに興味をもって、その理論と実用を追求するために仲間とNPO法人をつくり、いろいろな実践活動をしています。p117糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 おお、スナイダーまで出てきた。この「惑星の未来を想像する者たちへ」という本、近々読んでみよう。そう言えば、今から20年前に私も積極的に参加した「国際環境心理学シンポジウムスピリット・オブ・プレイス」を提唱したのは、日米の建築家たちだった。

 NPO法人の話題もでている。知人のかの地を考える時、新しい「集合性」を、NPOという形で集約し活性化していくことも、とても大事だと感じているところだった。

 パーマカルチャー・デザインとは、農のある持続的な暮らしをつくっていくためのデザインの方法論といえると思います。これは、永続の「パーマネント」、農業の「アグリカルチャー」、文化の「カルチャー」の合成語です。

 農業とは、先ほどのエコシステムでいうと、その循環系をつかさどる人間の営みです。それからDIYといった、自分たちの知恵と工夫で自分たちの暮らし環境をデザインしていくことが重要となります。

 このことは、「百姓のデザイン」といえます。なぜなら、百姓はものをつくるために、土壌の整備をはじめ、山の木をキリ、堆肥をつくるなど、総合的な仕事を行います。

 百姓のもともとの意味は「百の技」をもっていることですが、自らの生きる環境を自らつくることを率先してやってきました。これが、地域の資源や伝統的技術となり、現在議論されている適正技術・中間技術の視点ともつながっているのです。p117糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 このパーマカルチャーというキーワードもこれから要注目だな。

 スコットランドには「フィンドフォーン」という世界エコビレッジ大会を実施したエコビレッジがあり、スピリチュアル系でいやし系のエコビレッジとして有名です。p131糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 フィンドフォーンは、日本語で翻訳されている関係者たちの本は、あまりに「スピリチュアル系」すぎて、しかも「いやし系」過ぎるので、当ブログのシュミではない。だが、視点を変えて、再アプローチが必要になるかもしれない。そういえば、その地に最初に乗り込んだアイリーン・キャディたちは、かれこれ50年ほど前に、インスピレーションに引かれながら、おんぼろトレーラーバスで、貧しい土地に入り、そのバスを根城に定住を開始したのだった。

 アメリカにも、有名なエコビレッジがイサカにあります。ここは、有志がお金を集めて自前でつくったものです。コハウジングを核として構成され、計画では、三つのコハウジンググループをつくることになっていて、今は二つまでできています。

 コハウジング単位での暮らしがあり、敷地内には農場もあるエコビレッジです。農場は有機農産物をつくり、コミュニティに供給しています。p131糸長浩司「エコビレッジ 農を基盤に地域をつくりかえる」

 イサカについてはこれから調べてみようと思うが、ここから学ぶことは多そうだ。

イサカのエコビレッジ(EVI)の設計者たちにとって、最初から関心の中心は、中流階級の米国人が容易に複製できるということであった。すなわち「EVIの最終目標は、人間の居住環境を再設計することにほかならない。私たちは、持続可能な生活システムの実例を示す約500人の共同体システムをつくっている。それらのシステムは、それ自体が実践的であるだけでなく、他の人々にとっても複製が可能である」(EVI綱領)「世界のエコビレッジ 持続可能性の新しいフロンティア」p36

 エコビレッジにせよ、パーマカルチャーにせよ、地域の特異性に左右されるのは当然のこととして、それは他の地域にも移植可能な「再設計性」を保ったものであってほしい。

 この本、「日本のエコビレッジの展望」や「日本のエコキャンパスの試み」についても書いてあり、かなり興味深い。

<2>につづく

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