世界のエコビレッジ <1>持続可能性の新しいフロンティア
「世界のエコビレッジ」 持続可能性の新しいフロンティア
ジョナサン・ドーソン/緒方俊雄他 日本経済評論社 2010/09 単行本 145p
Vol.3 No.0237 ★★★★☆
某所に数万坪の土地がある。地目は山林。地方中核都市から車で一時間、温泉街を抱える山岳のふもとの公道に直かに接している。隣接するゴルフ場よりは狭いが、ハーフコースなら十分作れそうな広さだ。
この土地は当初別荘地として開発されたが、高度成長期の波に乗れず忘れられた土地となっていた。中に建設された総延長数キロに及ぶアスファルト道路と配管も空しく埋もれてしまっていたわけだ。
その土地を利用しようと10年ほど前から開墾を始めた人がいる。道に積った土砂を払いアスファルトの面を出し、平地には畑地を作った。保冷車などのコンテナを運びこんで簡易宿泊所や倉庫として使っている。
建築機械や農業機械も中古で安価なものを購入、水道施設の稼働可能性や、自然水の湧水も確認した。一家族分の農作物を収穫したり、数人程度の別荘ごっこなら、十分賄えるキャパシティである。
この土地に、周囲の人々も関わって、より大きな夢のプロジェクトを立ち上げることができないか、という話が仲間うちで話題になった。私も呼ばれて行ってみたことがある。実に刺激的なスペースではある。
あの広さはとてもとても個人で格闘できるような広さではない。私が畑しごとをするなら、ほんの小さな庭仕事で十分だと思う。でも、もしあそこに何人かの気のあう仲間たちが集い、さまざまな夢を語ることができたら楽しいだろうな、と思う。
あの土地を開発するには、まず何が必要だろうか、と思った。とりあえず思ったのは3つ。まず、循環型トイレを含め、滞在するための居住施設。ふたつ目は、すでに配線されている電気に追加するところのインターネット機器。最後は、形だけでも最初からNPOなどの法人格を持ったほうが楽だろう、ということだった。
その後、いろいろなイメージを膨らませてみたところ、期せずして数人の口からでた言葉が「エコビレッジ」という単語。どこかで聞いたことがありそうでもあるし、初めて考えるような単語でもある。だが、生態系に即した村、というイメージは、互いの夢をかきたてる。
エコビレッジは、目的共同体のなかでも、最も革新的で最も可能性のある形態である。しかも、私は、世界に広まる環境保護運動の先頭に立って2つの深遠な真実を統合させると信じている。その1つは、人間生活は小規模で協力的・健康的な共同体においてこそ最善の状態にあるということ、もう1つは、人間性を追求する唯一の持続可能な経路は伝統的な共同体生活の復活と向上にしかないということである。--米国ハノーバー大学教授(哲学)ロバート・J・ローゼンタール p9
エコビレッジという単語はすでに世界的に使われている。GEN(グローバル・エコビレッジ・ネットワーク)などという組織がすでに立ち上がり活動しているようでもある。その概念は必ずしも一致していないが、各地でその胎動が見られる。
人類の健全な発展を支え、限りない未来にうまくつながる方法を採用することによって、人間の活動が自然界に害を及ぼすことなく溶け込んでいるヒューマンスケールの、生活のための機能が十分に備わった集落である。p12(ギルマン夫妻によるエコビレッジの定義)
エコビレッジの5つの事例として、アジア、アフリカ、欧州、中南米、北米から1事例づつ紹介されている。
オーロビル(インド)
ムバムおよびフン(セネガル)
ズィーベン・リンデン(欧州)
イサカ・エコビレッジ(EVI:アメリカ)
エコオビラ(ブラジル)
有名なオーロビルは、インドの哲人オーロビンドやそのマザーによって作られたコミューンだ。苦節数十年のあと、近年ではバランスのとれた可能性のある共同体として各種のメディアで取り上げられることが多くなった。私も1978年に訪問したことがある。
アメリカのイサカの名前は、地域通貨でも有名だが、そのイサカと同じものかどうか、私にはよくわからない。しかし、ここにおける理念には目を見張るものがある。
イサカのエコビレッジ(EVI)の設計者たちにとって、最初から関心の中心は、中流階級の米国人が容易に複製できるということであった。すなわち「EVIの最終目標は、人間の居住環境を再設計することにほかならない。私たちは、持続可能な生活システムの実例を示す約500人の共同体システムをつくっている。それらのシステムは、それ自体が実践的であるだけでなく、他の人々にとっても複製が可能である」(EVI綱領)p36
この他、フィンドフォーンも紹介されている。
地球に優しく、環境効率性に優れた技術、統合された資源循環の組み合わせがもたらす恩恵は、スコットランドのフィンドフォーン財団が手掛けるエコロジカル・フットプリントに関する数々の研究によってうまく例証されている。この共同体の住民総数は約400人であり、彼らのほとんどの食糧は、地域密着型有機農業計画によって供給されている。この共同体は、最終的には風力や太陽光などの再生可能エネルギーの充電収支がプラスになっており、トレーラーハウス型住宅からエネルギー効率のきわめて高い住宅への長期的転換を行っている。p57
フィンドホーンについては、一応、読書ブログとして一連の日本語訳のリストを作って読んでみたが、個人的にはあまり波長が合わなかった。翻訳や紹介のされかたが幼稚なのか、すくなくともこの本で紹介されているような、歯ごたえが感じられなかった。
この本においてはエコビレッジの可能性も、問題や、限界性についても触れられている。巻末には参考資料として様々なリストがついているので、今後エコビレッジについて想いをめぐらそうとするなら、貴重な資料集となるだろう。
当ブログもいつまでも読書ブログという個人シュミに留まっているのではなく、具体的な仲間と具体的な動きに参加することもよいことだと考えている。具体的に上がったスペースと、具体的に繋がりのある友人や仲間たち。彼らとどのような共同性を持ち得るのか未知数だが、あのスペースと「エコビレッジ」というキーワードを摺り合わせていけば、何事かのホログラムが立ち上がるかも知れない。
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