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2011/03/11

「パーマカルチャー」 農的暮らしの永久デザイン ビル・モリソン<1>

パーマカルチャー―農的暮らしの永久デザイン
「パーマカルチャー」 農的暮らしの永久デザイン <1>
ビル・モリソン (著) , レニー・ミア スレイ (著), 田口 恒夫 (翻訳), 小祝 慶子 (翻訳) 1993/09 農山漁村文化協会 大型本: 203p
Vol.3 No.0285

 随所に福岡正信の「わら一本の革命」の引用が登場する。そのせいだろうか、どこか懐かしく、どこか親しみやすい。オーストラリア風にアレンジされているとはいうものの、その「哲学」はまさに福岡正信ゆずりの「自然農法」とも言えるだろう。その逆輸入されたとも思える「パーマカルチャー」は、世界各地にその影響力を及ぼし始めている。

 そういう目でみてみると、例えば某大手SNSには、この本をテーマとしたコミュニティがあり、5000人に及ぼうというメンバーを抱えているが、だが、新参者の私がみたかぎり、2004年にスタートしたこのコミュニティは必ずしも活発な議論が展開されているわけではない。

 あるいは、福岡著「わら一本の革命」にしても、「無--神の革命」にしても、私たちの世代も10代から影響を受けているにも関わらず、その「哲学」はおおいにもてはやされても、その「革命」が、生活の「実践」の場で生かされている現場というものは少ない。

 そのような視点で考える時、敢えてビル・モリソンによって再編集され、さらに新展開されている「自然農法」ライフスタイルに対して、謙虚に向かいあう必要は、おおいにあるのではないか、と思われる。ましてや、「実践」の場として、山の椒エコビレッジ、というフィールドを与えられている今、この本は、大きなバイブルとなり得る。

 最初はまずもっとも近いところから開発を始めるのが鉄則で、近くをしっかり把握できたらだんだん境界を広げていくようにする。初心者の場合、畑を母屋から離しすぎて、作物の収穫の能率も悪いし畑の手入れも行き届かないということになりやすい。時間をかければどんな土でも畑に適するようにつくることはできるものであるから、畑や果樹園は家の近くに置いたほうがよい。p16「効率的な活動エネルギー計画」

 山の椒は広い。4万坪ある。13haというと甲子園球場の10倍の広さ。とてもひとつふたつの家族では耕しつくせるものではないし、活用しつくせるものではない。すでに家庭菜園としてスタートしてから7年の時間が経過していたとしても、まだまだ余地はある。

 そのために、後から参加しようとする私のような立場では、あらたなる新天地を奥のほうに見つけようとするが、さて、それが本当に正しいのだろうか、と、この本を読みながら思う。むしろ、住居スペースは、集落として一部エリアに集中し、ライフラインを共用しながら、ビレッジ全体のデザインを考えていく必要があるのではないか、と思う。

 すべての資源は、それをどう利用するかによって、有利なものにも不利なものにもなる。海から始終吹きつけてくる風は不利にであるが、風力発電機を設け、畑を風除け柵の中か温室室にすれば、有利なものに変わる。

 不利なものを「問題」とみなし、その「問題を片づける」ために大量のエネルギー消費をともなう対策をとることもできるが、すべてを有望な資源と考えることもできる。どうしたらそれをうまく利用できるかをうまく利用できるかを考え出すのわれわれの仕事である。p35「すべて物事には両面がある」

 私はこの土地を秋から見はじめた。そして今、冬を見ている。この土地は標高平均400メートルという里山にある。しかも、なだらかな北斜面の雑木林なので、寝雪が多い。別荘地として開発された遺産として残された総延長2.5キロの整備されたアスファルト道路も、冬になれば雪に閉ざされる。

 もちろん、据え置きの除雪機やブルトーザーで除雪をすることもできるが、むしろ、この雪と共に共存すること、いや、むしろ、この雪を利用し、活用し、雪に生かされることを、最初の最初から考えつつこの地に入っていくことを学ぶべきなのではないか。

 「自分はこの土地に何をさせることができるか」と、「この土地から自分に何が与えられるか」という二つの問いの立て方がある。前者は、長期的結果を度外視した土地の摂取につながり、一方、後者は、人間の知性に導かれた永続的生態環境につながる。p39「用地の全体設計」

 このような心境になれるには、まずは、なんどもその土地に立ってみることであろう。概念としてはわかる。グーグルマップで地図もみることができる。一度行っただけでも、そのすごさはわかる。しかし、ひととおり見るだけでも一年、いやもっとかかるに違いない。

 地図は、観察がともなわれてはじめて役立つものである。たとえその地図が等高線や植生、浸食溝などが詳細に記入されてあったとしても、地図だけで設計しようなどとしてはいけない。p39「資源の確認」

 土地を知るということは、自分自身を知る、ということでもある。

 自分自身の持っている資源、財源、技術などについて考慮することも大切である。たとえば、あなたの技術や財産は、今からあなたがやりとげようとしている構想に十分応じうるものであるか。(中略)あなたのパーマカルチュアーシステムが供給するものに対する需要はあるか。現実的経営計画が立てられていたとしても、なんらかの事業上の変更を支えるのに、地域の回転資金の融資を利用できるのか。これらのことを考慮することも、大切である。p41「用地外の資源」

 確かに、農業機械士、危険物取扱とか、劇物毒物取扱、ボイラー関連資格など、いくつかの資格をとったことがあった。だが、そんなペーパーライセンスなど、大自然の前では吹き飛んでしまう。

 家屋をどこに置くかは、そこの気候によって異なるが、どの土地にあっても従うべき一定のルール、また、避けるべきことがいくつかある。

 そういうルールの一つに、次のことが上げられる。つまり、主要道路に近ければ近いほど、よいということだ。主要道路から家屋までの距離が長いとお金がかかり、維持するのが大変で、孤立した感じを受ける。p70「家屋の位置を決める」 

 山の椒エコビレッジは、交通量の多い県道に面している。その道に家屋を設置することもかのうであるし、そこから数百メートル、最深部では600メートルの玄関道を入ったところに家屋を置くこともできる。その目的によってさまざまなロケーションが考えられるが、ここでビル・モリソンは主要道路から「近ければ近いほどよい」と語っていることは記憶しておくべきだろう。もちろん「孤立」も大いに活用したいのだが。

 いったん通路や家屋の位置場所が決まったら、設計はより複雑な面に移り、建物の近辺とさらにそのまわりの場所に的を絞っていく。区域や区分、傾斜が大まかに検討されるのが、この時点だ。p71「優先順位の決定」

 ここまでくればかなりのものだ。しかし、ざっと考えて約40家族が関わることのできるキャパシティのある山の椒である。じっくり時間をかけて丁寧に土地との対話をつづけていきたい。

 この本においては、何を植えて、何を利用するか、ということについて細かにアドバイスが列記されている。そして、山の椒ですでにプロジェクトとしてスタートしているミツバチについても触れられている。

 ミツバチ

 畑でも果樹園でも、受粉係としてたいへん有用である。生産物としてはミツ、蜜ろうなどがあり、ニーズは水と花蜜が絶えまなく供給されることである。一年中ハチを自分のところに引き止めておくためには、完全な毎月のえさの供給を計画しなくてはいけない。しかし、花や花蜜の供給は天候しだいで年ごとにひどく違うので、時には砂糖水を与えたり、何マイルか先の花蜜の多い場所へ移動させたりする。p153「動物飼育システムと水産養殖」

 ここに書かれているのはセイヨウミツバチのことであるので、生態に違いのあると言われるニホンミツバチについては、別途、研究される必要がある。

 ここ10年くらいの間に、グローバルビレッジコミュニティーが徐々に発展してきた。それは、これまでに展開されてきた思考や価値観、技術の中でももっとも注目すべき変革である。この本は、耕す速度を早めることを意図しているのではなく、むしろ土地と生活に対しての、新しい、多様なアプローチに関する哲学を促進すること、そうして耕すことをを時代遅れなことにすることを意図している。

 人類の抱える問題に対して、私自身にはパーマカルチャーや適切な技術を取り入れた小さな責任あるコミュニティー形成以外に、何も(政治的、経済的)解決法は見出せない。中央集権的権力が続けられる日もあとわずかであろうし、社会の再組織化は、たとえときには痛みをともうなうこともあるとしても、避けることのできない過程であると信じている。p180「パーマカルチャーコミュニティー」

 エコビレッジにおけるパーマカルチャーを学ぶことは、人間とし地球につながり、そして宇宙へとつながる意識へと、一体化していく過程でもあろう。

<2>へつづく

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コメント

午前中にこの本ついてブログを書き、電車で町に出た。そうして耐震装置のついた高層ビルでのリスクマネジメントの会議に出た。

そうして遭遇したのが、3・11東日本大震災だった。

投稿: Bhavesh | 2018/08/24 00:53

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