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2011/06/10

邂逅の森

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「邂逅の森」
熊谷達也 2004/01 文藝春秋 単行本 456p
Vol.3 No.0298 ★★★★★

1)読書って面白いのかも、と思わせてくれた本。当ブログを書き始めたきっかけはいくつかあり、その一つは「ウェブ進化論」。それは「ブログ」にポイントがあり、それだけでは「読書ブログ」にはならなかった。図書館から本を借りてみようかな、と思ったのは、この「邂逅の森」のあらすじを、ドライブの途中でナビゲーター役の奥さんが、眠気覚ましに話してくれたのがきっかけだった。

2)とはいうものの、小説はいたって好きではないほうで、実際に読むのはどんどん後回しになっていた。いまいくつかのステップを経て「邂逅の森」に邂逅したのも、「山の神様」のお導きかもしれない。いや、そうに違いない。

3)スナイダーの描く山や森よりも、熊谷達也の描く山や森のほうにリアリティや親近感を感じたのは、書かれている現場がが近くにある、ということがあるだろう。人間関係的には2次の隔たりである。同時期に同業をしていた。極めて身近に思える作家の一人。会う気なら、いつでも会える距離にある。

4)しかし、「クマ」にまつわる話は私にとっては初めての話。森の生活が始まったこと。そこのニホンミツバチを狙ってクマが来るという話を聞いて、あらためてクマとの距離をはかった。

5)森でクマと遭遇しないためにはどうするか、ばかりを考えていた。ところがマタギの世界では逆だ。いかにしてクマと会うかを画策する。クマ対人間。逃げるのは人間だと思っていたが、マタギの世界では逃げるのはクマである。終章においては、そうばかりも言えないが。

6)山や森、マタギの世界は、隣県で行われていたとされる業態にせよ、あまりに生々しく、息をのむようなシーンが続いた。

7)後半は、クマや森から離れて、寒村や人間関係の「小説」となり、すこし「ものがたり」ぽくなってしまって、通常の小説となっている。だから「リアリティ」という意味では、こしらえられている、という感じがする。それでもやはり、その話を聞いてから7年ほど経過してから読むこの小説には素直に感動した。

8)里人には、ただただ混沌とした森が続いていると見える奥山の相も、富治たちマタギにとっては、狩猟の山として実に秩序だって見えるのと同様、明治から大正へと時代が移り行くにつれて近代化が進んできた鉱山の佇まいには、採鉱の山としての合理性と秩序がある。それが今の富治には、まだ見えていないだけだとも言えた。p143

9)自然林にはいり、そこに身をおいてみて、そこにある「秩序」に気づくには、更なる時間が必要となる。最後まで気づくことができないかもしれない。あるいは、運よく、ひとつふたつに気づくことができるかもしれない。

10)こんな山の奥に、これだけでけえ街があって、欲しいものはなんでも揃っていてよ、麓にはないような電灯の明かりまで点いているってこと自体、何かが間違っているように思えてならねえ。人間てのは、お天道様と一緒に生きていくべき生き物だって、俺ぁ思うんだ。p243

11)そうなんだけどなぁ。この小説を読んでいる間はそう思う。すっかり小説の中の気分に浸っている。だが一旦小説を離れると、この小説の方が、現代では通常のことではない。

12)だどもな、本来、ウサギの幸せは野山を駆け回ることだべ。そうすた幸せを最初から奪っておいで殺すのは、決していいことではねえのしゃ。そうまですて獣を殺さねばなんねえ今の世の中は、徐々に狂ってきてるように、俺には思えてなんねえんだ。俺達マタギも、自分らでもわがらねえうちに、欲ば大っきぐすてすまったような気がする。p403

13)遠くマタギやアイヌの世界では、熊を祭る儀式があった。自然に対する感謝と、自制の念が、狩手としての人間側に大きく働いていた。その秩序が、何時の間にか、大きく外れていた。今や、自制の念や感謝の気持ちがあったことさえ、忘れ去られている。

14)ミナグロだのミナシロだの、あるいはコブグマだのな、マタギさ伝わる獲ってわがんねえクマが現れるのは、山の神様がらの人間さ対する警告なのしゃ。森や獣の何かがおがしぐなりはじめている時に、奴らは姿を現すに違えねえんだ。俺を獲るのはかまわねえ、しかし、俺と刺し違えてマタギとしてのおめえも死ね。そう語ってんだべな、たぶん。p404

15)読み進めるうちに、どんどんストーリーに吸い込まれ、一気に読み切ってしまった。だが、最後の最後の部分は、う~ん、結局はエンターテイメントの小説なんだな、と思わずにはいられない。この辺は、もっとリアリズムに徹してもよかったようにも思う。

16)熊谷達也。もうちょっと読んでみようかな。巻末に「参考文献」として10数冊の「マタギ」関連の書物が掲載されている。こんなにあるのか。

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