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2011/06/16

イオマンテ めぐるいのちの贈り物

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「イオマンテ」 めぐるいのちの贈り物 北の大地の物語
寮美千子/小林敏也 2005/03 パロル舎 65p
Vol.3 No.0305 ★★★★★

1)この本を受け取って、さて、この本をどこで読もうかな、と思った。このまま自宅に戻って、寝っ転がって読もうか。森に行って読もうか。このまま車の中で読んでしまおうか。実際、読んでしまおうと思えば、あっという間に読んでしまえる童話風の絵本だ。

2)本としては大型だが、文字は大きいし(ルビまでふってある)、やさしい文体だ。それに絵がとてもイメージしやすく添えてある。小林敏也というひとの絵。

3)寮美千子、四冊目。一冊目がアメリカ・インディアン、二冊目がネパール(ヒマラヤだったかな)三冊目が岩手県遠野で、宮沢賢治が下地にある。そして、この四冊目は、北の大地アイヌの、熊の物語だった。

4)結局、森に行くのもまどろしく、近くの川原に降りて、ページをめくることにした。川原と言っても、一級河川だから、幅はやたらと広い。増水した時のために大きく川原が広く取ってあり、土手の内側には、畑や作業小屋があったりするし、野球場もある。

5)そして、そこは流木などが根づいたりして、既に森化しているのである。大水が出た時に流されるために、年輪を重ねたような大きな木はないが、それでも、樹齢数十年には至るだろうと思われる木々があちこちに森となっている。車で行きかう人びとの、ちょっとした隠れた休み場になっているのだ。

6)ある日、むちゅうで魚とりをしていたら、
いつのまにか、子熊がいなくなっていた。
青くなって、大声でよびながら川原をはしった。
ひとりで森に帰ってしまったのだろうか。
太陽はもりあがった雲のむこう、
雲のふちが金色にかがやいていた。
あふれる光が、
空いっぱいにひろがっている。
川は金の小舟をうかげたように、
まぶしくきらきら光っていた。
p22

7)このお話においては、「森」や「熊」とともに、「川」もまた、大きなファクターとなって登場してくる。なるほど、それで、私は「川」に呼ばれたのかな。

8)1991年の「スピリット・オブ・プレイス」のシンポジウムに参加していた姫田忠義・作「イヨマンテ」(1977)という長編ドキュメンタリー映画を見たことがある。たしか白黒映画だったので、明暗のメリハリの付いたトーンの強い映画だったが、それでも、そこに展開される熊送りの儀式の様子が鮮やかに写し取られていて、この絵本のように鮮やかな色を持っていたような感じがする。

9)この様な絵本をエンターテイメントとして読んでいいのだろうか。

10)高校二年生の修学旅行は1970年。ちょうど大阪万博の年だった。私たちの学年は大阪万博組と、北海道一周組と二手に分かれた。私はあの時、迷わず北海道一周組に参加したのだった。

11)高度成長期における明るい未来を象徴する大阪万博。それに比すところ、広い大地と、大自然の象徴である北海道。私はその修学旅行で、アイヌコタンを訪れ、熊を観たのだった。

12)今考えれば、それは観光地化されたアイヌコタンではあっただろうが、アイヌの人々の生活の助けになっていたことは間違いない。

13)北海道沙流郡平取町の山道(アシリ・レラ)さんが、時折、「アイヌ文化と歴史の会」、「沙流川を守る会」の会報を送ってくださる。何時だったか、21世紀になってからだと思うが、仙台に地震が来ることが分かったから、たまらず来てしまった、と、突然、わが家に来られたことがあった。

14)それから、わが地は何度も大きな地震に見舞われたが、あの時彼女が霊視していたのは、はて、今回の東日本大震災のことであっただろうか。あるいは、これからさらに大きな地震など、来るのだろうか。

15)いちめんの白が緑にかわり、はげしい夏の光がみちて、
実りの秋には赤や黄になり、またいちめんの白になる。
いくつもの季節がとぶようにすぎていった。
p54

16)こんなに簡単に、一年間を表現し、そしてもっと長い時間を表わすことができるなんて、びっくりした。

17)そう言えば、「コタン」という名前のラーメン屋さんをやっている人がいた。黙々と小さなお店を家族で切り盛りしているだけだが、それでも、あの生活態度には、どこか北の大地の子孫を思わせるところがあった。北海道から来た人たちだ、と聞いている。

18)この本は、「十勝場所と環境ラボラトリー」というところが、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構の助成を受けて企画したものだという。この「場所と環境」の「場所」は、間違いなく、スナイダーいうところの「場所=プレイス」であろう。

19)北山耕平氏は私のブログの「場所を生きる ゲーリー・スナイダーの世界」について、「20世紀末期、スナイダーは『再定住』という生き方を提唱した。21世紀にはそれは『再土着』へと向かわざるをえないだろう。」とリツイートした。

20)そのネーミングが正しいかどうかはともかくとして、その意味は分かる。土着とは言わないまでも、私は、地域密着型の仕事を選んできたつもりではあるが、それは「再定住」や「再土着」に連なる態度であっただろうか。「地域密着型」から、「地球密着型」のライフスタイルへと変わっていく必要もあるのだろうか。

21)「めぐるいのちの贈り物」。小さな悪戯小僧だった私も、いつの間にか子どもたちは巣立ち、まもなく二人目の孫を持つ老人となった。今回の原発の放射性物質の汚染を考える時、何かとてつもなく大きな間違いをしてしまったのではないか、と、未来のいのち達に対して申し訳ない気持ちが起きてくる。この絵本を見ていて、なお一層そう思う。

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